学部・大学院区分法・専学
時間割コード9350100
科目区分基礎法学・隣接科目
Basic Law and Related Courses
科目名 【日本語】法哲学
科目名 【英語】Philosophy of Law
担当教員 【日本語】松尾 陽 ○
担当教員 【英語】MATSUO Yoh ○
単位数2
開講期・開講時間帯春 木曜日 4時限
Spring Thu 4
対象学年1年
1
授業形態演習
Lecture


授業の目的 【日本語】
法曹は、日常的な業務の中では、法とは何か、裁判とは何か、正義とは何かという問題を考えることはあまりないだろう。しかし、これらの問いに直面せざるをえない困難な事例に直面することはある。あるがままの現状を観察することだけでは、これらの問いにアプローチすることはできない。法哲学は、時に空想的な事例を用いて、思弁的にこれらの問いにアプローチする。この思弁性は抽象的で難解で日常とは縁のないものだというイメージがあるが、必ずしも正しくはない。 生き方を考える際にも、人は思弁している。人はそれぞれ一回きりの人生しか生きることはできない。しかし、そのあるがままの生を受け入れているわけでは必ずしもない。いかに生きるべきかを考え、自分の生の行方を見定めようとする。他の人の人生を外側から観察しているだけでは、その問いにアプローチすることはできない。だからこそ、テレビドラマや小説の登場人物に自分と重ね合わせてみるのである。これも思弁なのであって、哲学者のみが行える特殊な営みではない。普通の人が行っている営みである。 法哲学を受講することの意味は、法曹の想像力を鍛え上げることにある。これは、夢見がちな法曹を作り上げることではない。現状を豊かに捉えるためにこそ、想像力が必要となるのである。 本講義で取り扱う法哲学は、一般法哲学ではなく、応用法哲学と呼べるものである。可能な限り、実定法の問題と関係が深いテーマを取り上げる予定である。 この授業の主眼は思考を学ぶことにある。思考を学ぶためには、講師が考えていく有り様を見せるしかない。それゆえ、この授業は知識を提供することを直接の目的としないが、思考の前提として一定の知識を提供することはある。上記の問いについて、講師が、受講生の目の前で/受講生とともに、考えるだけである。そして、こんな風に考えたい/考えたくないと思っていただければ、つまり、講師の思考方法を教師/反面教師として捉えていただければ、それが、今後、法曹として生きていくうえで一つの「引き出し」となり、想像力の糧となるだろう。
授業の目的 【英語】
到達目標 【日本語】
(1)具体的な法実践上の問題と法哲学の問題との関連性を理解する。哲学的問題性格がわかる。 (2) 既存の法の実体的基礎・手続的基礎を反省的に捉えることができる以上を通じて、法フェティシズムから脱却し、しかしながら/それゆえにこそ、社会における法の役割をより深く理解することを目指す。
到達目標 【英語】
授業の内容や構成
回 / テーマ / 講義内容 / 授業時間外の学修活動 / 関連ページ

1
イントロダクション
・女性専用車両は男性差別かという問題から法的思考を捉える。
・入口の問題と出口の問題――法的手段の限界 ・どのように問題を整理していくのか。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

2
裁判の正義【裁判の役割(1)】
裁判と正義の関係。正義の女神像。
ルールと原理
ルール基底的決定理論
司法制度改革における裁判所の役割論。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

3
裁判官の判断は科学者の判断に置き換えることが望ましいか?【裁判の役割(2)】
・知財高裁設立前の論争を読む。
・科学とは何か? ・法的に解決するとは何か?
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

4
裁判官は庶民の感情を理解する方がよいか?【裁判の役割(3)】
・オバマ大統領がソーニャ・ソトマイヤー判事を指名した理由と保守派の批判
・正義の実現に「共感(エンパシー)」が重要であるのか? ・ロールズ対センの論争を読む
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

5
裁判で何が救われるのか?(救われないのか?)【裁判の限界】
・福岡セクハラ訴訟の当事者の手記を読む。
・公害問題を裁判は解決できるのか?
・借地借家法をめぐる「法と経済学」論争
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

6
事実認定は裁判官の勝手な判断なのか?
・ある科学者の問題提起。
・自由心証主義の「自由」はどのような意味か?
・自由心証主義の限界に登場する証明責任とは何か? 証明責任はどのような前提に立つのか? ・割合的因果関係論と法。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

7
罪とは何か?
・刑罰によって守られるべき法益(危害原理とリベラリズム)
・危害原理の困難。
・パターナリズム、モラリズム、不快原理をめぐる学説。 ・ポルノ規制の根拠は何か?
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

8
ヘイト・スピーチ規制は実施されるべきか?
・ヘイト・スピーチ規制をめぐる従来の学説 ・尊厳とは何か?
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

9
刑事訴訟における被害者等参加制度の意義はどこにあるのか?
・どうして刑事法は被害者の参加に消極的だったのか(であるのか)?
・被害者・遺族の手記を読む。 ・被害者等参加制度をめぐる学説。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

10
プライバシーはいかなる利益を包含しているのか?
・一人で放っておいてほしい権利などというものを言い出したのはなぜか? ・古代ギリシアでは、なぜプライバシーは低く評価されたのか?
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。 『古典で読む憲法』

11
福祉国家や情報化社会にプライバシーはどうあるべきか?
・匿名でネットにアクセスする自由はあるべきか?あるとすれば、具体的には誰に対するどのような権利(利益)として構成すべきか? ・既に我々のプライベートな情報の多くは(自らの半分の同意のもとに)ネットに流出してしまっている。プライバシーを守るといっても意味がもうないのではないか?
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

12
商業の精神とは何か?
・表現の自由はなぜ重要なのかという問いは憲法学で多く語られる。しかし、経済的自由はなぜ重要なのかということは憲法学であまり問われることはない。そこで、近代憲法の背景にあるといわれる「商業の精神論」とは何かを考えてみる。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。 *近刊予定の教科書の一部のコピー

13
近代立憲主義はどういうものか?
・近代リベラリズムと近代立憲主義との関係。
・人権でイメージされる自由とは何か?
・統治の効率性と自由はどのように対立するのか?
*時間の余裕があれば法と経済学の問題の一部をここで扱う。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。 松尾陽「アーキテクチャによる規制と立憲主義の課題」法律時報掲載

14
民主政の理念は何か?
・なぜ民主政なのか?
・真理は、民主政を要請するのか、あるいは独裁を要請するのか? ミルとアーレント ・民主政論において意志と理性はどのような関係にあるのか?
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

15
民主政はどのように制度化されるべきなのか?
・多数決原理と代表原理。これら二つの原理の根拠は何か? ・間接民主制と直接民主制、Eデモクラシーを素材として。
予め検討素材を入れたレジュメあるいは論文のコピーを配布するので、ざっと目を通すこと。

16
期末試験
筆記試験
持込み不可 六法不要。
試験の講評は、このCanvasのページのファイルのところにアップロードいたしました。

履修条件・関連する科目
なし
成績評価の方法と基準
(1)発言・討論への参加意欲と内容 30 % (2) 学期末試験 70 %
教科書・テキスト
レジュメを配布
参考書
・田中成明『現代法理学』(有斐閣) 978-4641125483 ・平野仁彦・亀本洋・服部高宏『法哲学』(有斐閣アルマ) 978-4641121485 ・宇佐美誠・瀧川裕英・大屋雄裕『法哲学』(有斐閣) 978-4641125674
課外学習等(授業時間外学習の指示)
*配布したレジュメを熟読すること。
注意事項
ニュースなどをみておくこと。考えること。
名古屋大学におけるCOVID-19問題についての下記の指針を参照すること(とくに「5.学生の入構制限」に注意)。
http://www.law.nagoya-u.ac.jp/_userdata/20200409shishin2.pdf
(なお、「方針」における警戒カテゴリー・レベルは更新される―上記のものはあくまで4月9日現在のものである―ので、名古屋大学HP(トップページ)にある「新型コロナウィルス感染症(COVID‐19)における名古屋大学の活動方針」を随時確認するようにすること。)
授業開講形態等
遠隔授業(オンデマンド型)で行う場合の追加措置