学部・大学院区分
Undergraduate / Graduate
理学部
時間割コード
Registration Code
0623300
科目区分
Course Category
専門科目
Specialized Courses
科目名 【日本語】
Course Title
物理学特別実験
科目名 【英語】
Course Title
Experiments in Physics - Advanced Course
コースナンバリングコード
Course Numbering Code
担当教員 【日本語】
Instructor
金田 英宏 ○
担当教員 【英語】
Instructor
KANEDA Hidehiro ○
単位数
Credits
20
開講期・開講時間帯
Term / Day / Period
通年(春秋) 月曜日 3時限
通年(春秋) 月曜日 4時限
Full-year course(Sp-Fa) Mon 3
Full-year course(Sp-Fa) Mon 4
授業形態
Course style
実験
Laboratory
学科・専攻
Department / Program
物理学科
必修・選択
Compulsory / Selected
選択必修


授業の目的 【日本語】
Goals of the Course(JPN)
実験コースを選択する学生は各実験系研究室に所属し、各研究室が用意する実験テーマのうち1つを選択して、1年間にわたって実験を行う。最先端の実験物理を通して物理学の知識を深めることを目的としている。

春学期履修登録期間に月曜3・4限に登録すること。
(秋学期履修登録期間には履修登録の必要なし)
授業の目的 【英語】
Goals of the Course
Students who choose the experimental course belong to each laboratory and carry out physics experiments for one year in each laboratory. The aim of this class is to deepen students' knowledge of physics through state-of-the-art experimental physics.
到達目標 【日本語】
Objectives of the Course(JPN))
各研究室で1年間に渡って行った実験結果と考察について発表できること.
各研究室の具体的な研究内容については, 授業内容」の欄を参照のこと。
到達目標 【英語】
Objectives of the Course
Students should be able to make presentations on the results of their graduation research experiments based on the relevant physics. Possible themes of the graduation research experiments are listed below.
授業の内容や構成
Course Content / Plan
素粒子・原子核物理学分野 

●F研(基本粒子研究室)
素粒子標準模型におさまらない諸問題に取り組むべく、素粒子/宇宙をはじめそれにとどまらない実験的研究を行う。この学問領域で研究したい学生諸君、また物理や理学の枠に収まりきらない興味、才能をもつ学生諸氏を歓迎する。
F-1 ダークマターの正体を探る
ダークマター(WIMPS)の衝突によって生じた反跳原子が残す非常に短い飛跡を超微粒子の原子核乾板で3次元的にとらえ、ダークマターの飛来方向をとらえその存在を実証する実験NEWSを推進する。超微粒子結晶の開発、100nm程度の極短飛跡を光学的に読出す手法や装置の開発を行い、目的を達成する。実験はイタリアグランサッソー研究所で準備中である。またWIMPS以外のダークマター候補の可能性を探る実験的研究も推進する。
F-2 ニュートリノの研究
ニュートリノ振動の実証により質量の存在が確定したが、3種(νe、νμ、ντ)以外のニュートリノが存在するのかどうか?質量の絶対値や階層性、マヨラナ粒子なのかディラック粒子なのかなどの解明すべき本質的な課題や、宇宙をみたしていると考えられているビッグバンニュートリノの検出などの、基礎的~挑戦的な実験的諸課題に取り組む。
F-3 気球搭載型大口径超高解像原子核乾板望遠鏡による宇宙の観測
気球に世界最大口径のγ線望遠鏡を搭載して、γ線で天体を高分解能にイメージングするGRAINE計画を推進する。現在、2018年5月のオーストラリアフライトの解析を進めており、γ線天体の世界最高分解能でのイメージングの実証を目指している。2021年に次期フライトを予定しておりその望遠鏡開発にも取り組む。
F-4 宇宙線ラジオグラフィ
宇宙線を用いた火山、ピラミッドなどの大型構造体の透視を推進する。基礎研究から派生した発展著しい応用研究領域である。他分野の研究所、産業界との連携も密に行う。
一方でフィールドとする自然界は、人類が決して作り出すことが出来ない宇宙初期に生成された未知の物質の飛来する場と考えることもでき、宇宙線に照射した大面積の原子核乾板の全解析を行うことによりこれらを探索するという基礎研究の場でもある。
F-5 原子核乾板をはじめとする素粒子検出器の開発研究
素粒子研究で培ってきた原子核乾板技術をベースとし、検出器の開発研究を推進する。
例1)中性子を用いた近接力の測定:超高精度原子核乾板による中性子の波動関数検出。
例2)自動原子核乾板読取装置の開発(画像認識の高度化、高速化)など。
例3)原子核乾板本体の開発。化学合成で製造する原子核乳剤の特性革新に取り組む。
●N研(高エネルギー素粒子物理学研究室)
N-1, N-2, N-3 現代素粒子物理学実験
素粒子物理学は、物質を構成する基本粒子とその相互作用を探求する学問である。現在のところ、物質の最小構成要素は6種類の「クォーク」と「レプトン」と呼ばれる粒子とそれらの反粒子であり、粒子間に働く力は、光子やWボゾンなどのゲージ粒子によって媒介されること、そしてこれら素粒子の質量が「ヒッグス粒子」によって与えられることが知られている(標準理論)。本研究室は、その実験的検証を進め、粒子と反粒子の対称性の破れに関する小林-益川理論を検証し、2012年にはヒッグス粒子を発見することに成功した。現在は、標準理論を超える新しい物理(素粒子)の兆候を探索することを狙って、「LHCアトラス実験」とともに「スーパーBファクトリー実験」を進めている。そして、こうした研究によって、「暗黒物質とは何なのか?」や、「宇宙から如何にして反物質が消えたのか?」といった宇宙の謎の本質に迫りたいと考えている。こうした壮大な研究も、一人一人の独自のアイデアや努力が結集したものであり、4年生の研究もその一翼を担うことを意識して進めたい。4年生実験におけるテーマの概略は、以下の通りである。
N-1 スーパーBファクトリー実験
本研究室は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)におけるBファクトリー実験を推進し、B中間子崩壊におけるCP対称性の破れの観測によって、小林・益川理論の実験的検証を成功させた。現在は、ビーム輝度を30倍に増強したスーパーBファクトリー実験によって、大量に生成されるB中間子やタウレプトンの稀崩壊過程をより精密に調べ、電荷を持つヒッグス粒子などの未発見の素粒子や、標準理論では起こらないような新しい物理現象の発見を目指している。4年生は、これまでの実験で得られたデータの解析やシミュレーションに携わることで、最先端の素粒子研究についての理解を深めることができる。本テーマでは、本研究室のスーパーコンピュータを駆使した研究も行うことができる。
N-2 LHCアトラス実験
LHC実験では、周長27 kmの世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突型加速器LHCによって、素粒子の質量起源の研究を行うとともに、超対称性理論や余剰次元理論で予言される新しい素粒子の発見を目指す。本研究室は、ミュー粒子検出器の建設や運転に携わり、安定的なデータ取得に対して不可欠な役割を果たしてきた。また、トップクォークの生成断面積測定やヒッグス粒子に関連したデータ解析に対し、多大な貢献をした。さらに、余剰次元理論で予言される粒子の探索を行い、余剰次元のスケールに関する強い制限を得た。これらの成果を基盤として、2015年からは、衝突させる陽子のエネルギーを2倍程に上げて測定感度を大幅に上げ実験を行っている。4年生は、ミュー粒子検出器の運転や次世代の読み出し用集積回路の開発、ヒッグス粒子や新物理に関するデータ解析を通し、最先端の素粒子実験の基礎を学ぶことができる。
N-3 粒子検出器の開発
最先端の物理研究には、最先端の実験装置が必須であり、素粒子物理学もまた新しい技術開発によって進んできた。4年生もこうした最先端の技術開発を担うことが可能である。本研究室では、スーパーBファクトリー実験に向けて、「TOPカウンター」という新型検出器を独自に考案し、その技術開発と本番実験で使う測定器の製作を進めている。TOPカウンターは、石英輻射体の中で荷電粒子が放射したチェレンコフ光を、数十ピコ秒の時間精度で測定する装置であり、従来の粒子識別検出器性能を大きく上回る次世代粒子識別装置として注目されている。また、LHCアトラス実験で新粒子を見つけるには、大量の背景事象の中から、見たい新粒子の信号候補を選択的に選び出すトリガー装置の開発が鍵を握っており、新しいアイデアを試している。本テーマでは、世界初の試みに貢献する絶好の機会を提供する !
●Φ研(素粒子物性研究室)
素粒子の実験的研究は、高エネルギー加速器を用いて素粒子の反応を直接的に研究する方法と、高エネルギー現象が低エネルギー過程に現れる微小な効果を計測する方法とに大別される。当研究室では、低速の中性子やミューオン、原子核を用いた精密測定により素粒子物理学の実験的研究を行っている。実験には世界最高輝度を誇るJ-PARCのパルス中性子やミューオン、カナダTRIUMF研究所のイオンビーム、フランスLaue Langevin研究所(ILL)やアメリカ国立標準技術研究所(NIST)または京都大学原子炉実験所(KUR)などの研究用原子炉からの定常中性子ビームを利用する。以下は現時点で想定される課題であるが、実際に行なう実験内容は参加学生との議論の中で生まれるアイデアを尊重して進めることを考えている。新たな先端研究分野への意欲を持つ学生を歓迎する。
Φ-1 中性子崩壊率(中性子寿命)
中性子の崩壊率は、クォーク間の弱い相互作用の強さや初期宇宙における元素合成の過程を決定する基本パラメータであるが、充分な精度で値が確定していない量でもある。高精度計測によってこれらの物理的な理解を検証・精密化するとともに、標準的でない相互作用の探索を行なう。
Φ-2 中性子共鳴吸収反応における空間・時間反転対称性の破れの研究
現在の物質優勢宇宙を形成するためには粒子と反粒子の間に素粒子標準模型を超える大きな非対称が存在しなければならず、その探索は素粒子物理学の重要な課題である。中性子と原子核の反応を用いてこれに挑んでいる。
中性子が特定の原子核に共鳴吸収され複合核を作る反応では空間・時間反転対称性の破れが大きく増幅され得ることが理論的に示唆されている。候補となる標的原子核の特性を詳細に研究するとともに、中性子スピン制御、標的原子核の偏極、高速検出器など必要とされる装置を開発し、素粒子標準模型を超える対称性の破れを探索する。その探索感度は後述する電気双極子能率の探索に匹敵しうる。
Φ-3 中性子による未知相互作用(余剰次元等)の探索
重力相互作用はあまりにも弱いため、素粒子を研究する際には無視されるのが通常である。しかし、中性子は電気的に中性子で電磁場の影響を受けにくく、低速の中性子は重力の影響を大きく受ける。これを利用して、余剰次元による異常な重力など、これまでに知られていない相互作用を探索する。
Φ-4 中性子電気双極子能率
中性子は電荷を持たないが、粒子反粒子の非対称性は0ではない電気双極子能率を示唆する。しかしこれまで電気双極子能率の0でない値を観測した実験は存在しない。この電気双極子能率の上限値は素粒子の理論に極めて強い制限を与えており、値の確定は素粒子研究の最重要課題の一つである。
毎秒数メートルまで減速された中性子を物質容器内に閉込め、電磁場下でのスピン歳差周波数を精密に計測する。閉込め量増大及び運動状態制御に対して、世界最高レベルの中性子光学を最大限利用して従来の測定感度の限界を打破し、中性子電気双極子能率の発見を目指す。またもう一つの測定法として、中性子と物質内部の高電場との相互作用を利用した中性子電気双極子能率の高感度計測の可能性も探っている。
Φ-5 原子核ベータ崩壊電子のスピン相関
偏極した原子核のベータ崩壊で生じる電子のスピン偏極には時間反転対称性に感度を持つ物理量が含まれている。カナダのTRIUMF国立研究所で得られる大強度偏極8Liビームを用い、電子のスピン偏極を測定することで、時間反転対称性を破るスピン相関項を世界最高精度で探索する。
以上の研究テーマに加えて、「中性子反中性子振動を通じたバリオン数非保存過程の探索」や「中性子干渉計を用いた暗黒エネルギー探索」、「ミューオニウム超微細構造の精密測定」などのテーマがある。




 宇宙物理学分野 

●A研(天体物理学研究室)
138億年にわたる宇宙の歴史のなかで、宇宙の構成要素である恒星や銀河がどのように生まれ、進化してきたかを理解することは、現代の天体物理学・天文学の主要なテーマのひとつだ。天体物理学研究室 (A研) では、あらゆる天体の根源である星間物質に着目し、ミリ波サブミリ波観測という手段を駆使して、こうした天体の形成と進化を理解する研究を行っている。天文学分野のフロンティアを切りひらく情熱と意欲をもった学生を歓迎する。
A-1 遠方銀河の観測的研究
遠方宇宙で形成される若い銀河が放射する遠赤外線のダスト放射や原子輝線は、宇宙膨張に伴い”赤方偏移”してサブミリ波領域で観測することが可能だ。4年生実験では、世界最大のサブミリ波望遠鏡アルマや当研究室が開発に参画するサブミリ波望遠鏡アステを軸に、世界各地の電波望遠鏡や可視赤外望遠鏡も併用した遠方銀河の星形成活動や星間物質、超大質量ブラックホールと銀河の共進化に関する観測的研究を行う。
A-2 次世代サブミリ波望遠鏡のための装置開発
当研究室では、次世代の大型サブミリ波望遠鏡の性能を飛躍的に向上させる、以下の技術開発を行っている: (1) 電波波面の撹乱を実時間で補正するミリ波補償光学技術、(2) 超伝導共振器技術を利用した超広帯域サブミリ波分光器。これらは世界に類を見ない試みであり、新しいアイデアがあれば4年生でも先端分野を切りひらくことが可能である。これらの開発プロジェクトに主体的に参加し、既存の電波望遠鏡に搭載し、世界初の実証実験に取り組む。
A-3 銀河系及び近傍銀河のNANTEN2ミリ波・サブミリ波望遠鏡による星間物質の観測とデータ解析
天の川銀河や近傍銀河の星間分子ガスの広域な分布や物理状態を探るため、我々は口径4mのNANTEN2ミリ波・サブミリ波望遠鏡を南米チリアタカマ高地(標高4865m)に設置し、星間分子・原子スペクトル線の観測を行っている。名古屋大学から望遠鏡を遠隔操作し、電波分光観測の方法を学ぶとともに、銀河系中心部、大小質量星形成領域、超新星残骸、系外銀河等の各種天体の観測的研究を行う。
A-4 NANTEN2マルチビーム受信器システムおよびソフトウェア開発
サブミリ波観測に好適なチリアタカマ高地の特長を最大限活かしながら、分子スペクトル線の観測効率をさらに高めるため、NANTEN2望遠鏡に搭載する多波長・多ビーム同時受信システムの開発を進めている。この開発実験に参加し、ヘテロダイン受信機やデジタル分光計の開発、および各種運用・制御ソフトウェア、データ解析用ソフトウェアの開発を行う。
●CR研(宇宙線物理学研究室)  
宇宙線は宇宙から地球に降り注ぐ陽子、カ?ンマ線、ニュートリノなと?、高エネルキ?ー素粒子の総称て?ある。宇宙線物理学は、宇宙物理学と素粒子・原子核物理学にまたか?る境界分野として、その最前線か?研究対象である。また宇宙線は宇宙磁場の影響を受けながら地球に降り注ぎ環境に影響を与えうる。CR研は、素粒子と宇宙の両方に関心を持つ、視野の広い意欲的な学生を求める。
大学院て?は、スーパーカミオカンデでのニュートリノ研究や、液体キセノンを用いた暗黒物質探索XENON実験、フェルミガンマ線衛星、CTA実験での宇宙カ?ンマ線観測による宇宙線加速機構の解明や暗黒物質の探索、LHCて?の超高エネルキ?ー宇宙線のハドロン相互作用の研究、太古の宇宙線バースト現象の研究、など宇宙物理から加速器実験まて?幅広い研究を行っている。実験と並行して、宇宙線テキストブック(小田稔「宇宙線」(裳華房)、D. Perkins,”Particle Astrophysics” (Oxford Univ. Press))の輪講を行う。また、データサイエンス教育にも力をいれており、データ解析ツールROOTの講習会や、機械学習によるデータ解析などにも取り組んでいる。
CR-1 液体キセノン検出器による宇宙暗黒物質の直接探索
宇宙の重力の大半を担う暗黒物質は、未知の素粒子WIMPと考えられている。将来の40トン級超大型液体キセノン検出器による暗黒物質探索実験に向けて、液体キセノン検出器を自作して紫外光検出器や低温技術を学び、その基礎特性を研究しながら、暗黒物質の研究を行う。
CR-2 宇宙ガンマ線による宇宙線物理学
電荷を持たない宇宙ガンマ線は宇宙磁場に関わらず直進し、宇宙線起源の観測・研究が可能となる。次世代ガンマ線観測装置CTAやガンマ線衛星に使用する半導体検出器や信号処理回路の開発や、暗黒物質信号の探索および超新星残骸や超巨大ブラックホールなどの宇宙線起源候補における宇宙線加速機構の解明に取り組む。
CR-3 水チェレンコフ検出器を用いたニュートリノ研究
ニュートリノはとても軽く中性で左巻きしか存在しない謎の粒子で、宇宙や素粒子の成り立ちの鍵を握っていると考えられる。大型水チェレンコフ検出器スーパーカミオカンデを用いたニュートリノ研究や、現在建設中のハイパーカミオカンデに向けた大型光センサーや機械学習を用いたデータ解析ツールの開発などを行う。
CR-4 超高エネルギー宇宙線のハドロン反応の研究
 宇宙線の最高エネルギーは10の20乗eVに到達し、LHCを上回る超高エネルギーでのハドロン反応が起こっている。LHCやRHICなど陽子コライダーで得られた超高エネルギー反応データの解析や、それを適用した大気中での宇宙線シャワーシミュレーションの研究などを行う。
CR-5 宇宙線放射性核による過去の宇宙線変動の研究
 宇宙線によって作られる年輪中の放射性炭素14や南極氷床中の放射性ベリリウム10などの宇宙線放射性核種の測定により、過去の宇宙線量の変動を研究する。過去に起こった超巨大太陽フレアや近傍超新星爆発の探索や、太陽の11年周期活動との相関研究を行う。
● U研(宇宙物理学研究室)
U-1 赤外線天文衛星「あかり」などによる赤外線データの解析(Uir)
赤外線天文衛星「あかり」には、本研究室が中心になって開発した遠赤外線観測装置 FIS に加え、近・中間赤外線カメラ IRC と二つの観測機器が搭載された。天体からの赤外線放射の源は、主に星間空間に漂う固体微粒子(有機物・鉱物)の熱的放射や、原子・分子ガスのスペクトル線である。赤外線の観測を行うことで、我々の銀河系の星間空間や星形成領域の物理状態、銀河の星形成活動史などを調べることができる。本研究室が作成した「あかり」赤外線全天マップを中心に、「あかり」を含むさまざまな赤外線望遠鏡で取得された膨大な観測データから、面白そうな天体(銀河や惑星形成円盤など)を選んで、その天体の赤外線放射の特性を学ぶ。また、その過程を通して、天体画像データ解析や赤外線観測装置について習熟する。
U-2 次世代衛星用の赤外線検出器・冷却光学系の開発・評価(Uir)
次世代の赤外線天文衛星用の装置開発につながる基礎技術を身につけるべく、赤外線カメラや冷却光学系の新しい評価技術の開発などの実験に参加してもらう。実験を通して、低温・赤外線検出器の技術を身近に体験し、計測器の制御・実験データ取得の基礎を学ぶ。あるいは、光学干渉計を用いた鏡の低温面形状測定などの実験に参加し、低温反射光学系の設計・計測の基礎を習得する。
U-3 地上望遠鏡および気球望遠鏡のための赤外線分光器の開発(Uir)
南アフリカ天文台サザーランド観測所1.4 m望遠鏡IRSF用の近赤外線分光器、またはインド気球望遠鏡用の遠赤外線アレイ分光器の開発を行う。これらの分光器の開発を通じて、天体観測装置の開発に必要な知識・技術を広く習得する。より具体的には、
1.幾何光学をもとにコンピュータによる光学シミュレーションを行い、光学系の製作・調整をする。
2.加重/熱による材料の変形を考慮した3次元CADによる機械設計をおこない、製作する。
3.赤外線検出器の原理を理解し、検出器の性能評価とその制御回路を製作する。
4. 実際に手を動かして、分光器の開発を行う。
U-4 地球型系外惑星の食分光のための超高安定分光器の開発(Uir)
 本研究室は、NASA Ames Research Centerと共同で、食を起こす地球系外惑星の大気分光を目的とした超高安定分光器の開発を行っている。本分光器はNASAが計画する将来の大型宇宙望遠鏡に採用されており、本分光器を用いて生命の代謝活動を探査することが検討されている。本分光器は、瞳収縮分光器という新しい技術を採用しており、望遠鏡の指向擾乱などの外乱下でも数十万分の一の精度で分光測光が可能になることが期待されている。そこで、本研究テーマでは、NASA Ames Research Centerにおいて開発されている瞳収縮分光器の試験機に取り付ける、1. 望遠鏡の外乱を模擬する極低温望遠鏡シミュレーター、あるいは、2. 極低温光源を精密に計測する高精度測光器の開発を行う。これらの開発を通して、赤外線観測装置の概要および計測・制御の基礎を習得する。
U-5 スペース赤外線干渉計の開発(Uir)
赤外線天文学は、他の観測波長帯に比べて空間分解能(解像度)が大きく制限されるため、数多くの重要な未解決な課題を残している。例えば、宇宙再電離期(赤方偏移 > 6)における初代天体の形成解明や宇宙における生命現象の探査である。その空間分解能の制限を打破する方式として、空間的に離した2台の望遠鏡からの光を干渉させる天体干渉計がある。2台の望遠鏡の距離(基線長)によって空間分解能が決定されるため、既存あるいは計画中の赤外線宇宙望遠鏡の空間分解能を一気に100倍から1000倍まで向上させることができる。本研究室は、世界的にも類を見ない、スペース赤外線干渉計の開発に取り組んでおり、世界で初めての赤外線干渉計を打ち上げることを目指している。具体的には、スペース赤外線干渉計のプレカーサーとして2020年代中盤の打ち上げを目指した気球搭載型遠赤外線干渉計の開発、さらに東京大学工学部と連携した超小型衛星を利用した小型干渉計である。本研究テーマでは、気球搭載型遠赤外線干渉計におけるサブシステム(遠赤外線検出器や光学系)の開発を通して、天体干渉計の基礎および赤外線観測装置の基礎を習得する。
U-6 宇宙X線・ガンマ線の観測装置開発(Uxg)
X線望遠鏡とその熱制御材、そして硬X線・MeVガンマ線の観測装置開発を進めている。X線望遠鏡開発では、格段に角分解能の高い新技術の開発を進めており、太陽X線観測や、SuperDIOSなどの将来衛星への適用を目指している。望遠鏡を宇宙の過酷な熱環境から守る熱制御薄膜の開発研究でも世界の先端にある。2021年に打ち上げ予定のX線偏光衛星IXPE、2022年のX線精密分光衛星XRISMに続き、太陽観測ロケットFOXSIや、ガンマ線バースト衛星HiZ-GUNDAM、硬X線の将来衛星FORCE、地球磁気圏X線撮像 GEO-X 計画などの将来計画に参加している。観測装置では、硬X線のイメージャーや将来のMeV宇宙観測をめざした気球実験を進めている。また、自然界で唯一知られる静電場粒子加速である雷雲からのMeVガンマ線の観測研究も進めている。4年実験では、X線望遠鏡、熱制御膜、MeVガンマ線観測装置の開発に取り組む。実験を通じて、宇宙の高エネルギー現象観測を目標とした、設計・製作・評価の一連の研究開発を学び、X線光学、検出器技術の基礎を修得し、プロジェクト型の研究推進を身につけることを期待する。


U-7 X線天文衛星データ解析による観測的宇宙物理(Uxg)
宇宙にはブラックホールや銀河団など、数千万度の高温プラズマや高エネルギー粒子にあふれ、X線で明るく輝く高エネルギー天体が沢山ある。日本で打ち上げられた5・6番目のX線天文衛星である「すざく」や「ひとみ」、NASAのX線衛星Chandraと、硬X線衛星NuSTARや、ESAのX線衛星XMM-Newtonなどの観測データを解析し、宇宙の高エネルギー現象の解明に挑戦する。具体的には、銀河、銀河団、ブラックホール、中性子星、恒星フレアなどの観測的研究を行い、観測宇宙物理の基礎を習得する。
U-8 原始重力波検出のための量子ロッキングによる標準量子限界の打破技術の開発(Uxg)
宇宙重力波望遠鏡DECIGOは、インフレーションの時期に発生したとされる原始重力波を検出し、宇宙誕生の謎を解き明かすことを主目的とする日本の将来計画である。しかし、原始重力波の強度には不確定性があるため、その検出をより確実に行うためには、DECIGOの目標感度をできるだけ高めておく必要がある。そこで、我々は『光バネを利用した量子ロッキング法』を新たに考案した。これを使うと、不確定性原理によって規定される標準量子限界を打破する感度の実現が可能である。本研究では、この手法の理論解析と原理実証実験を行い、最適な概念設計を構築し実現可能感度を評価する。
U-9 原始重力波検出のための変位雑音フリー中性子干渉計の開発(Uxg)
原始重力波を捉えるために最も適した周波数帯は0.1~1 Hzである。しかし、地上における標準的なレーザー干渉計型重力波検出器においては、地面振動などの鏡の変位雑音のため、この周波数帯における感度は低い。そこで、我々は、以前に開発した『鏡の変位雑音キャンセル法』と『中性子干渉計』を組み合わせて、『変位雑音フリー中性子干渉計』を新たに考案した。これを使うと、地上において原始重力波の検出ができる可能性がある。本研究では、この手法の理論解析と原理検証実験を行い、最適な概念設計を構築し実現可能感度を評価する。




 物性物理学分野 

●I研(固体磁気共鳴研究室)
I研は、物質の磁性と超伝導について、核磁気共鳴(NMR)法を主な測定手段として研究している。NMRは、病院で使用されているMRI(磁気共鳴画像)装置と同じ測定原理を持ち、原子核をプローブとして、電子系の磁気的性質や電気的性質をミクロな立場から研究することができる実験手段である。4年生では、以下の実験テーマの研究を通して、実験研究の進め方を修得するとともに、これまでに学んだ量子力学や統計物理学などを用いて、現実の物質の物性をどのように理解することができるのかを体験する。
I-1 強相関電子系の磁性
電子系の多体効果は固体物理学の中で最も本質的で重要な問題の一つである。電子間相互作用が強い電子系は強相関電子系とよばれ、電子が内部自由度として持っている電荷、スピン、軌道の自由度がからみあった多彩で新奇な物性が現れる。典型的な強相関電子系である3d遷移金属酸化物や化合物を対象に、試料合成からはじめて、試料評価およびNMR実験を行う。温度や圧力を変えることによって起きる金属絶縁体転移や電荷秩序転移、スピンクロスオーバー、軌道秩序や軌道液体、幾何学的フラストレーションを持つ系で現れるスピン液体、重い電子系、励起子絶縁体などの研究を行う。
I-2 鉄系超伝導体の物性
2008年に発見された鉄系超伝導体は、金属系超伝導物質、銅酸化物高温超伝導物質とは異なった超伝導機構を持つ新規超伝導物質として注目され、現在、超伝導発現機構や物性に興味が持たれている。種々の鉄系超伝導体の試料合成を行い、X線回折による試料評価からはじめ、電気抵抗、帯磁率、比熱などの巨視的物理量の測定およびNMR測定を行い、超伝導発現機構に関する研究を行う。また、鉄系超伝導関連物質の物性についても探究する。
I-3 NMR測定技術の開発
強相関電子系の特異な物性は極端条件下であらわになることが多く、高圧力、高温、高磁場、極低温などの極端条件下でのNMR実験が有効である。このために、高圧、高温で使用できるNMRプローブの開発、NMR装置の高感度化、NMRデータ解析プログラムの開発など、NMRの測定技術の開発を行う。さらに、これらを用いて、高圧や高温下で現れる新奇物性の研究を行う。
●J研(ナノ磁性・スピン物性研究室)
J研究室では、ナノスケールで初めて顕在化する新しい磁性・スピン物性・超伝導物性の解明と物理学の新概念の創出を目指した研究を行っています。ナノ物性の研究では、新現象の発現の舞台を自らで人工的に自在に設計・創製することで、従来アプローチすることが困難であったような領域への扉を開くことができます。電子系・フォノン系・スピン系が強く結合したミクロな界面状態の設計により角運動量やエネルギーの保存則に基づく面白い現象が次々に発見されています。また、これらの現象の起源の解明は、逆に物理現象を操作する方法論や原理の提案にもつながるという点からも興味深いのです。4年生の皆さんは、単結晶薄膜成長、ナノ微細加工、電気・磁気測定等の実験技術の習得から始め、物性物理研究の醍醐味を体験します。最近の進めている研究の例のいくつかを示します。
J-1 界面マルチフェロイクスと交差相関
磁気モーメントは磁場と、電気分極は電場と相互作用することは一般的ですが、磁気モーメントが電場と、電気分極が磁場と相互作用する物質があります。マルチフェロイクスと呼ばれるこの物質群は非常に稀です。しかし、物質の界面を利用することで人工的に設計・創製することが可能です。この研究では、磁気モーメントと電気分極の相互作用のメカニズムの解明を通して、電気で磁石を操作する原理の提案を目指します。
J-2 準粒子の伝播とトンネル現象
強磁性の低エネルギー励起状態にスピン波と呼ばれる形態があります。このスピン波を量子化した準粒子はマグノンと呼ばれます。マグノンは強磁性体中を減衰しながら伝播しますが、マグノンにとってのエネルギー障壁を人工的に形成できれば、マグノンのトンネル効果を観測することできます。この研究では、マグノンのトンネル効果の観測とトンネル過程の物理機構の解明を目指します。
J-3 マグノン-フォノン結合と熱輸送
比熱に格子比熱や電子比熱があることからもわかるように、格子を量子化したフォノンや電子は熱の輸送媒体になります。一方で、強磁性スピン波に対応する準粒子(マグノン)も熱の輸送媒体となりえます。このマグノンとフォノンとの間での熱の受け渡しの機構が明らかになれば、熱を自在に操作し、利用する新しい原理につながります。この研究では、その物理機構の解明を目指します。
J-4 スピン流と磁気秩序との相関
強磁性や反強磁性等の磁性体の磁気秩序は、物質内での原子の配列やそれらの間の磁気的な相互作用によって一意的に決定されます。しかし、電荷の流れを伴わずスピン角運動量のみが移動する純スピン流が物質内に注入されると、平衡状態で見られる磁気秩序とは様相が異なる非平衡磁気秩序状態が発現します。この研究では、純スピン流と磁気秩序との相互作用の解明を目指します。
J-5 磁性/超伝導ナノ界面における電子相関
磁性体/超伝導体の界面では、電子間の相互作用を介して磁気秩序と超伝導秩序が影響を及ぼし合います。超伝導体にナノスケールで侵入する磁気秩序は、スピンの向きが揃った超伝導キャリアを有する非従来型の超伝導状態を誘起することができます。逆に、磁性体に侵入する超伝導秩序によって、磁化の向きを制御することも可能です。この研究では、このような磁性による超伝導の制御、あるいは超伝導による磁性の制御を可能にするナノ界面での微視的な電子間相互作用の解明および新規現象の開拓を行います。
●V研(機能性物質物性研究室)
V研は機能性物質の物理学を研究する研究室です。機能性物質とは、磁石になる、電気を通す、熱を蓄えるといった、私たちに役に立つ性質(機能)を示す物質のことです。V研では未解明の機能を持った新物質、「新しく、面白く、役に立つ物質」を自ら創り出し、その機能を計測し、機能が発現する仕組みを理解することを研究テーマとします。こうした研究を通じて、物理学の新分野の開拓を目指します。以下に実験テーマのいくつかの例を示します。
V-1 相互作用の競合から生じる新物性
固体の中には、電気的、磁気的、機械的など様々な相互作用があり、いくつかが競合する場合があります。競合の仕方によって物質は予想もしない応答を示します。最近、私たちは相互作用が拮抗することによって生じた新規な量子スピン系を見出しました。また、複数の基底状態が競合するCa2RuO4の非線形応答を調べています。相互作用が競合するような特異な結晶構造を設計し、未知の物性を開拓します。
V-2 半金属における巨大機能の開拓
半金属とは伝導バンドの下端のエネルギーが、価電子バンドの頂上のエネルギーより低くなる(バンドギャップが負)の物質です。これまで金属や半導体・絶縁体は物性研究や機能開拓が進んできましたが、半金属は未解明の物性が多い、未知の物質群です。最近私たちは室温で強磁性を示す半金属や、従来の低温熱電性能を遥かに凌駕する半金属を発見しました。このような非従来型の半金属に眠る未知の物性を精密測定によって掘り起こします。
V-3 ユニークな結晶構造を持つ機能性物質の開発
 物質中の原子配列である「結晶構造」は物質の性質を決める重要な要素であり、ユニークな結晶構造においてはユニークな物性が発現する可能性があります。本テーマでは、ユニークな結晶構造を持つ物質に注目し、その物性測定や放射光構造解析により新奇な伝導・磁気特性を持つ物質を開拓します。
●Y研(応答物性研究室)
Y-1 優れた機能性と環境親和性を兼ね備えた誘電体
 誘電体は電気伝導体や半導体と並んで、今日の科学技術を支える重要な物質系です。系統的な物質合成と、精密な物性計測を通して、主に地殻に豊富に含まれる軽元素を物質の構成要素としつつ、優れた機能性を発現する新しい誘電体を設計・開発します。具体的には、巨大な誘電率を持つ物質や光によって誘電率が変化する物質、温度変化によって発電する物質などを創製します。
Y-2 新しい強誘電体の探索
自発的にN極とS極に分かれた物質を強磁性体と呼びますが、一方で自発的に+極と-極に分かれた物質は強誘電体と呼ばれます。強誘電体は通常の誘電体では生じない様々な機能を示し、不揮発性メモリやアクチュエータ、非線形光学結晶等に広く応用されています。私たちの研究室では、結晶構造と構成元素、そして格子揺らぎの間の相関に着目して、新しい強誘電体を探索します。
Y-3 準結晶の新奇物性
「準結晶」は、原子配置の並進対称性について特殊な等比数列的な規則性(準周期性)をもち、結晶と似たような回折像が現れるが、その回転対称性は結晶では許されないものであり、アモルファスとも異なる「第3の固体」です。周期的ではないため、電子状態は通常の結晶とは異なっていると考えられています。長距離の磁気秩序や超伝導など電子の凝縮状態も含めて、準結晶特有の電子状態に起因する新奇物性を探索します。
Y-4 新しい準結晶・近似結晶の探索
広義の結晶(準結晶・近似結晶を含む固体)を舞台にした固体物理学を基本にして、新しい物理現象の発見と周期・準周期性で物性をコントロールする新たな手法の基礎研究を進めています。新奇物性(強相関電子系を含む電子物性、格子物性、…)が生み出す機能性材料の創成を目指して、新しい準結晶・近似結晶の探索を行い、高次元空間を利用したマテリアルデザインと広義の固体物理学の学理を追求します。





 生物物理学分野 

● D研(生体分子動態機能研究室)
タンパク質や核酸などの生体高分子は、構造変換や自己集合、さらには他分子との結合・解離といった様々な動的現象を介して独自の生理機能を発揮しています。生体分子の動作原理を理解するためには、分子が機能している様子をその場観察し、分子の構造動態や周囲の分子との動的相互作用を一分子レベルで解析することが重要となってきます。D研では溶液下にある分子を高い時空間分解能で可視化できる高速原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)技術をベースに、新規機能の開発や他の先端一分子計測手法との複合化を進め、新しい動的構造生命科学の開拓を目指しています。また、生体分子の高次構造構築原理の解明を目指し、X線回折実験などによる高分解能立体構造解析も行っています。
D-1 生体機能分子の動態解析と機能発現機構の解明 
多くのタンパク質は周囲の環境変化や基質の結合や分解、解離などの化学反応を引き金として、局所的な構造変化とその時間発展に伴う大局的な構造変化や多分子との協奏的な相互作用により独自の機能を発揮します。モータータンパク質や膜タンパク質などを対象に、高速AFMにより構造変化や分子間相互作用のダイナミクスをリアルタイムで可視化し、詳細な解析を行うことで、生体分子の作動原理を解明します。
D-2 高速AFMの高度化と新規顕微鏡技術の開発
生体分子では構造だけでなく、電気特性や力学特性の局所分布とそれらの時間発展も機能に極めて重要な役割を果たしていると考えられています。高速AFMでは通常試料の表面構造をイメージングしますが、物性分布を可視化するなどの新規機能の開発を進めます。また、蛍光顕微鏡などの先端一分子顕微鏡との複合化により、複数のタンパク質が関与する複雑な系の動態解析が可能な装置の開発も目指します。
D-3 視物質ロドプシンの高分解能時間分解構造解析
光受容体ロドプシンを対象に、放射光およびX線自由レーザーを用いた最先端の結晶構造解析により高精度で分子機構を解明し、それに基づいて新しい機能を持った光駆動タンパク質を創成します。
● G研(光生体エネルギー研究室)
蛋白質は40億年の生命の進化によって創られた極めて精巧なナノデバイスです。植物や藻類が行う光合成では、蛋白質中に配置された色素分子や金属イオンによって、極めて高い量子効率の光エネルギー変換が実現します。この最も基本的な生命現象を理解するためには、この生体ナノデバイスの分子機構を明らかにする必要があります。 振動分光法、電子スピン共鳴、レーザー分光、分子軌道計算などの物理的手法を駆使して、光合成蛋白質の機能解明を目指します。4年生では生物試料の調製や分光測定、計算機による解析など、研究の基本的技術を習得しながら自らの研究課題に挑戦します。
G-1 光合成蛋白質のエネルギー移動および電子移動機構の解明
光合成では植物に光が照射されると、クロロフィルなどの色素による光吸収、励起エネルギー移動、電子移動、プロトン移動などの反応がフェムト秒からミリ秒の時間オーダーで連続的に起こります。また極低温において中間状態をトラップすることも可能です。様々な分光測定を用いてこうした反応を原子・分子レベルで追跡し、反応の分子機構とシステムの作動原理を解明します。
G-2 光合成酸素発生機構の解明
植物の光合成による酸素発生のメカニズムは未だ解決されておらず、光合成研究における最大の謎として残されています。 酸素発生は、蛋白質中に存在する金属クラスター(4つのマンガン原子と1つのカルシウムからなる)において、水の光分解によって行われますが、その構造も反応機構についても詳しいことは明らかとなっていません。赤外分光法や電子スピン共鳴法などを駆使して、酸素発生系の構造と反応メカニズムの解明を目指します。
G-3 生体測定技術の開発
生体試料の多くは濃度が薄く(量が少ない)壊れやすいという特徴あります。 そのため、測定にはさまざまな工夫が必要です。 測定系や試料部を自ら加工・製作し、新しいユニークな測定技術の開発を目指します。
●K研(細胞情報生物物理研究室)
生命現象には、様々な時間・空間スケールにわたって情報の変換や伝達が伴います。K研では、生体高分子、細胞を対象として、生命現象に見られる情報変換・情報伝達の機構や過程を研究しています。分子レベルの研究では、蛋白質の構造形成機構や複合体形成を伴う機能発現機構に焦点をあてます。一方、細胞レベルの研究では、シナプスにおける情報伝達機構に焦点をあてます。以下、それぞれの研究テーマについて具体的に記します。
K-1 蛋白質の構造形成/複合体形成を伴う機能発現機構の研究
蛋白質は、アミノ酸が多数連なってできた生体高分子であり、生命現象を担う機能性分子です。蛋白質の機能発現のためには、鎖状分子が折れたたみ、天然立体構造をとることが必須であり、さらに、複数の蛋白質分子が複合体を形成することもあります。蛋白質の構造形成・複合体形成およびそれに伴う機能発現は、生命科学と物質科学との境界に位置する現象であるにもかかわらず、その機構はよく分かっていません。蛋白質の構造形成・複合体形成の物理化学的機構が解明されれば、生命科学の地平線は大きく広がるはずです。物理学特別実験では、(1) 独自に開発した高速反応測定法や分光学的手法を用いた構造形成の物理化学的機構の研究、(2) 複合体形成を伴う概日リズム機能発現機構の研究を行います。具体的な実験内容は、以下の項目から適宜選択します。変異体蛋白質の作成とそれに伴う遺伝子操作、蛋白質の発現・精製、蛋白質の分光学的測定、構造形成・機能解析。
K-2 シナプスにおける情報伝達機構の研究
ニューロンとニューロンの接合部であるシナプスでは、活動電位が引き金となって生じるシナプス小胞の細胞膜との膜融合を通じて開口放出される神経伝達物質により信号が伝達されます。また、シナプスは信号を繰り返し伝達することにより、伝達効率が変化する性質(可塑性)を持っており、これが記憶・学習など脳の高次機能の基礎となっています。カエルの神経筋接合部シナプスを標本として、シナプス小胞の膜融合機構やシナプス可塑性の機構について、電気生理学的測定や蛍光顕微鏡を用いたイオン動態イメージング法により研究します。
履修条件
Course Prerequisites
物理学科の研究室配属条件を満たしていること。
関連する科目
Related Courses
物理学科の全科目。
成績評価の方法と基準
Course Evaluation Method and Criteria
成績評価が基準に達しない場合はすべてFとする。
不可(F)と欠席(W)の基準
Criteria for "Fail (F)" & "Absent (W)" grades
各研究室の判断に依る。
参考書
Reference Book
各研究室毎に指定する.
教科書・テキスト
Textbook
各研究室毎に指定する.
課外学習等(授業時間外学習の指示)
Study Load(Self-directed Learning Outside Course Hours)
各研究室毎に指示が出る。
注意事項
Notice for Students
なし。
他学科聴講の可否
Propriety of Other department student's attendance
不可
他学科聴講の条件
Conditions for Other department student's attendance
レベル
Level
キーワード
Keyword
履修の際のアドバイス
Advice
授業開講形態等
Lecture format, etc.
各研究室の判断に依る。
遠隔授業(オンデマンド型)で行う場合の追加措置
Additional measures for remote class (on-demand class)