学部・大学院区分
Undergraduate / Graduate
理学部
時間割コード
Registration Code
0680390
科目区分
Course Category
専門科目
Specialized Courses
科目名 【日本語】
Course Title
物理学特別実験
科目名 【英語】
Course Title
Graduation Research-Experiments
コースナンバリングコード
Course Numbering Code
担当教員 【日本語】
Instructor
谷山 智康 ○
担当教員 【英語】
Instructor
TANIYAMA Tomoyasu ○
単位数
Credits
20
開講期・開講時間帯
Term / Day / Period
秋 月曜日 3時限
秋 月曜日 4時限
秋 月曜日 5時限
秋 火曜日 3時限
秋 火曜日 4時限
秋 火曜日 5時限
秋 水曜日 3時限
秋 水曜日 4時限
秋 水曜日 5時限
秋 木曜日 3時限
秋 木曜日 4時限
秋 木曜日 5時限
秋 金曜日 3時限
秋 金曜日 4時限
秋 金曜日 5時限
Fall Mon 3
Fall Mon 4
Fall Mon 5
Fall Tue 3
Fall Tue 4
Fall Tue 5
Fall Wed 3
Fall Wed 4
Fall Wed 5
Fall Thu 3
Fall Thu 4
Fall Thu 5
Fall Fri 3
Fall Fri 4
Fall Fri 5
授業形態
Course style
実験
Laboratory
学科・専攻
Department / Program
G30 Physics
必修・選択
Compulsory / Selected
See the “Course List and Graduation Requirements for your program for your enrollment year.


授業の目的 【日本語】
Goals of the Course(JPN)
実験コースを選択する学生は各実験系研究室に所属し、各研究室が用意する実験テーマのうち1つを選択して、1年間 にわたって実験を行う。最先端の実験物理を通して物理学の知識を深めることを目的としている。
授業の目的 【英語】
Goals of the Course
Students who choose the experimental course belong to each laboratory and carry out physics experiments for one year in each laboratory.
The aim of this course is to deepen students' knowledge of physics through state-of-the-art experimental physics.
到達目標 【日本語】
Objectives of the Course(JPN))
各研究室で1年間に渡って行った実験結果と考察について発表できること。 各研究室の具体的な研究内容については, 授業内容」の欄を参照のこと。
到達目標 【英語】
Objectives of the Course
By the end of the course, students will be able to present the results and discussions of experiments carried out in each laboratory over a year. For the specific research content of each laboratory, refer to the "Course content and structure".
授業の内容や構成
Course Content / Plan
素粒子・原子核物理学分野 

● F研(基本粒子研究室)
素粒子標準模型におさまらない諸問題に取り組むべく、素粒子/宇宙をはじめそれにとどまらない実験的研究を行う。この学問領域で研究したい学生諸君、また物理や理学の枠に収まりきらない興味、才能をもつ学生諸氏を歓迎する。
F-1 ダークマターの正体を探る
ダークマター(WIMPS)の衝突によって生じた反跳原子が残す非常に短い飛跡を超微粒子の原子核乾板で3次元的にとらえ、ダークマターの飛来方向をとらえその存在を実証する実験NEWSを推進する。超微粒子結晶の開発、100nm程度の極短飛跡を光学的に読出す手法や装置の開発を行い、目的を達成する。実験はイタリアグランサッソー研究所で準備中である。またWIMPS以外のダークマター候補の可能性を探る実験的研究も推進する。
F-2 ニュートリノの研究
ニュートリノ振動の実証により質量の存在が確定したが、3種(νe、νμ、ντ)以外のニュートリノが存在するのかどうか?質量の絶対値や階層性、マヨラナ粒子なのかディラック粒子なのかなどの解明すべき本質的な課題や、宇宙をみたしていると考えられているビッグバンニュートリノの検出などの、基礎的~挑戦的な実験的諸課題に取り組む。
F-3 気球搭載型大口径超高解像原子核乾板望遠鏡による宇宙の観測
気球に世界最大口径のγ線望遠鏡を搭載して、γ線で天体を高分解能にイメージングするGRAINE計画を推進する。現在、2018年5月のオーストラリアフライトの解析を進めており、γ線天体の世界最高分解能でのイメージングの実証を目指している。2021年に次期フライトを予定しておりその望遠鏡開発にも取り組む。
F-4 原子核乾板をはじめとする素粒子検出器の開発研究
素粒子研究で培ってきた原子核乾板技術をベースとし、検出器の開発研究を推進する。
例1)中性子を用いた近接力の測定:超高精度原子核乾板による中性子の波動関数検出。
例2)自動原子核乾板読取装置の開発(画像認識の高度化、高速化)など。
例3)原子核乾板本体の開発。化学合成で製造する原子核乳剤の特性革新に取り組む。

● N研(高エネルギー素粒子物理学研究室)
N-1, N-2, N-3, N-4 現代素粒子物理学実験
素粒子物理学は、物質を構成する基本粒子とその相互作用を探求する学問である。現在のところ、物質が6種類の「クォーク」と「レプトン」で構成されること、粒子間に働く相互作用が光子やWボゾンなどの「ゲージ粒子」によって媒介されること、素粒子の質量が「ヒッグス粒子」によって与えられることが知られている(標準理論)。本研究室は、その実験的検証を進め、粒子と反粒子の対称性の破れを説明する小林-益川理論を検証するとともに、ヒッグス粒子を発見することに成功した。現在は、標準理論を超える新しい物理を発見することを目的として、「スーパーBファクトリー実験」、「LHCアトラス実験」、「ミューオンg-2/EDM実験」を進めている。これらの研究によって、「暗黒物質の正体は何なのか?」、「宇宙から如何にして反物質が消えたのか?」といった標準理論では説明できない宇宙の謎の本質に迫りたい。こうした壮大な研究は、一人一人のアイデアや努力が結集して初めて成立するものであり、4年生の研究もその一翼を担う。以下に、4年生実験におけるテーマの概略を示す。
N-1 スーパーBファクトリー実験
本研究室は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)におけるBファクトリー実験を推進し、B中間子崩壊における粒子と反粒子の対称性の破れの観測によって、小林・益川理論の実験的検証を成功させた。現在は、ビーム輝度を30倍に増強したスーパーBファクトリー実験によって、大量に生成されるB中間子やタウレプトンの稀崩壊過程をより精密に調べ、電荷を持つヒッグス粒子やレプトクォークなどの新粒子や、標準理論では起こらない新しい物理現象の発見を目指している。4年生は、これまでの実験で得られたデータの解析やシミュレーションに携わることで、最先端の素粒子研究についての理解を得ることができる。本テーマでは、本研究室の高性能のコンピュータを駆使した研究も行うことができる。
N-2 LHCアトラス実験
LHCアトラス実験では、スイス・ジュネーブに設置された周長27 kmの加速器LHCによって世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突を実現し、素粒子の質量起源の研究、超対称性理論や余剰次元理論で予言される新しい粒子の探索を行っている。本研究室は、ミュー粒子検出器の運転を通じて高い質のデータ取得を強く支え、2012年のヒッグス粒子発見を導いた。また、トップクォークの性質の解明、ミューオンの質量起源の探求、超対称性粒子の探索などで成果をあげてきた。2025年頃からは、陽子・陽子衝突の頻度をLHC設計値の7.5倍に向上させヒッグス機構の精査やより高感度の新物理探索を行う。4年生は、ミュー粒子検出器の運転、読み出し回路の開発、ヒッグス粒子や新物理に関するデータ解析を通し、最先端の素粒子実験を学ぶことができる。
N-3 ミューオンg-2/EDM実験
g-2は、粒子が持つ磁気の強さを示す基本的な物理量である。ミューオンのg-2は非常に精密に測定することができ、これまでに0.1 ppmオーダーの測定精度を実現しているが、測定結果が標準理論の予測と乖離しており、標準理論を超える物理が寄与している可能性がある。本研究室では、KEKのJ-PARC加速器を用いてミューオンのg-2を全く新しい手法で測定し、これまでに得られている乖離の解釈に決着をつけるための準備を進めている。新しい手法の実現に質の高いミューオンビームが欠かせず、2025年の完成を目指して技術開発を行っている。4年生は、新しいミューオンビームの輸送系や制御系の技術開発に携わることができる。
N-4 先端実験技術の開発
最先端の物理研究には最先端の実験技術が必須であり、素粒子物理学もまた新しい実験技術の開発によって進展してきた。本研究室では、「TOPカウンター」という新型検出器を独自に考案し、その技術開発と製作を進め、スーパーBファクトリー実験への実装を成功させた。TOPカウンターは広範な新物理探索で不可欠であり、近年はその改良のための新しい光検出器の開発も行っている。また、最先端の集積回路を用いて機械学習を高速で実現することにより、LHCアトラス実験のデータの中から新粒子のデータを選び出す新しいアイデアを試している。世界初となるミューオン加速器の開発、ビッグデータの解析、データ解析や粒子識別への機械学習の応用も行っている。4年生はこれらに携わることができる。世界初の試みに挑戦する絶好の機会を提供する。

● Φ研(素粒子物性研究室)
素粒子の実験的研究は、高エネルギー加速器を用いて素粒子の反応を直接的に研究する方法と、高エネルギー現象が低エネルギー過程に現れる微小な効果を計測する方法とに大別される。当研究室では、低速の中性子やミューオン、原子核を用いた精密測定により素粒子物理学の実験的研究を行っている。実験には世界最高輝度を誇るJ-PARCのパルス中性子やミューオン、カナダTRIUMF研究所の超冷中性子、フランスLaue Langevin研究所(ILL)やアメリカ国立標準技術研究所(NIST)または京都大学複合原子力科学研究所(KURNS)などの研究用原子炉からの定常中性子ビームを利用する。以下は現時点で想定される課題であるが、実際に行なう実験内容は参加学生との議論の中で生まれるアイデアを尊重して進めることを考えている。新たな先端研究分野への意欲を持つ学生を歓迎する。
Φ-1 中性子崩壊率(中性子寿命)
中性子の崩壊率は、クォーク間の弱い相互作用の強さや初期宇宙における元素合成の過程を決定する基本パラメータであるが、充分な精度で値が確定していない量でもある。高精度計測によってこれらの物理的な理解を検証・精密化するとともに、標準的でない相互作用の探索を行なう。
Φ-2 複合核状態における空間・時間反転対称性の破れの研究
現在の物質優勢宇宙を形成するためには粒子と反粒子の間に素粒子標準模型を超える大きな非対称が存在しなければならず、その探索は素粒子物理学の重要な課題である。中性子と原子核の反応を用いてこれに挑んでいる。
中性子が特定の原子核に共鳴吸収され複合核を作る反応では空間・時間反転対称性の破れが大きく増幅され得ることが理論的に示唆されている。候補となる標的原子核の特性を詳細に研究するとともに、中性子スピン制御、標的原子核の偏極、高速検出器など必要とされる装置を開発し、素粒子標準模型を超える対称性の破れを探索する。後述する電気双極子能率の探索と独立な高感度探索である。
Φ-3 中性子電気双極子能率
中性子は電荷を持たないが、粒子反粒子の非対称性は0ではない電気双極子能率を示唆する。しかしこれまで電気双極子能率の0でない値を観測した実験は存在しない。この電気双極子能率の上限値は素粒子の理論に極めて強い制限を与えており、値の確定は素粒子研究の最重要課題の一つである。
毎秒数メートルまで減速された中性子を物質容器内に閉込め、電磁場下でのスピン歳差周波数を精密に計測する。閉込め量増大及び運動状態制御に対して、世界最高レベルの中性子光学を最大限利用して従来の測定感度の限界を打破し、中性子電気双極子能率の発見を目指す。またもう一つの測定法として、中性子と物質内部の高電場との相互作用を利用した中性子電気双極子能率の高感度計測の可能性も探っている。
Φ-4 中性子による未知相互作用(余剰次元等)の探索
重力相互作用はあまりにも弱いため、素粒子を研究する際には無視されるのが通常である。しかし、中性子は電気的に中性子で電磁場の影響を受けにくく、低速の中性子は重力の影響を大きく受ける。中性子の散乱や干渉を利用して、余剰次元による異常な重力や暗黒エネルギーなど、これまでに知られていない相互作用を探索する。
Φ-5 ミューオニウム超微細構造の精密測定
正ミューオンと電子からなる水素様原子ミューオニウムはレプトンの二体系であり、理論的に精密な計算が可能である。超微細構造を精密に分光することで素粒子標準理論を検証したり、ミューオン異常磁気能率測定実験の入力パラメータを取り出すことができる。大強度パルスミューオンを用いて世界最高精度で測定する。また負ミューオンをヘリウム原子に結合させたミューオニックヘリウムの分光実験も行っており、これらを組み合わせることでミューオンの質量やより基本的な対称性について調べることができる。
以上の研究テーマに加えて、「中性子反中性子振動を通じたバリオン数非保存過程の探索」などのテーマがある。

● μ研(宇宙線イメージング研究室)
本研究室では、宇宙線中に含まれる素粒子ミューオンを原子核乾板などの飛跡検出器により可視化し、その飛跡情報を解析することで、ピラミッドや火山などの巨大な人工構造物や自然物の内部を非破壊でイメージングする技術(宇宙線イメージング)の開発研究を行っている。宇宙線を検出する技術である原子核乾板の基礎開発から宇宙線イメージングの可視化対象に特化した応用研究、さらにはその技術の社会実装まで進めている。既存の物理学の枠にとらわれない幅広い興味と意欲を持つ学生を歓迎する。
μ-1 宇宙線イメージングの基盤技術開発
宇宙線イメージングに必要な基盤技術の開発を行う。1.宇宙線イメージングに必要な長期間特性を備える新しい原子核乾板の開発を有機化学などの技術を導入して進める。2.宇宙線イメージングのためのシミュレーション技術の開発を行う。3.計測した宇宙線データから観測対象の三次元密度分布を再構成する技術の開発を行う。
μ-2 ピラミッドなどの考古遺跡調査技術の開発
2015年よりエジプトのピラミッド群の未知の内部構造を探査するScanPyramidsを推進している。これまでにクフ王のピラミッド内部に2つの未知の空洞を発見したが、新しい調査対象としてカフラー王のピラミッドなどの研究を進める。ホンジュラスやグアテマラなどの中南米のマヤ文明の神殿ピラミッド、イタリアのナポリ市街地のギリシャ地下遺跡など、世界中の遺跡を対象として、遺跡を傷つけない新しい調査手法の開発を進めている。
μ-3 地下構造探査および土木構造物をはじめとした社会インフラ点検技術の開発
近年、地下空洞による陥没事故や集中豪雨などによる河川堤防の決壊、社会インフラの老朽化などが社会的な問題となっており、宇宙線イメージングにより地下構造や土木構造物などの内部を可視化することで、これらの事故を未然に防ぐための技術開発を進める。これらの研究は、可視化対象を専門とする研究機関や課題を抱える自治体、企業などと連携して進める必要があり、社会実装まで視野に入れた開発を行う。
μ-4 宇宙線イメージングの新規対象の開拓
樹木の診断や橋梁の劣化診断、巨大火山「富士山」の内部可視化、溶鉱炉や焼却炉などの工業用プラントの内部診断、地下資源の探査など、新しい調査対象の開拓を進める。


宇宙物理学分野 

● A研(天体物理学研究室)
138億年にわたる宇宙の歴史のなかで、宇宙の構成要素である恒星や銀河がどのように生まれ、進化してきたかを理解することは、現代の天体物理学・天文学の主要なテーマのひとつだ。天体物理学研究室 (A研) では、あらゆる天体の根源である星間物質に着目し、ミリ波サブミリ波観測という手段を駆使して、こうした天体の形成と進化を理解する研究を行っている。天文学分野のフロンティアを切りひらく情熱と意欲をもった学生を歓迎する。
A-1 遠方銀河の観測的研究
遠方宇宙で形成される若い銀河が放射する遠赤外線のダスト放射や原子輝線は、宇宙膨張に伴い”赤方偏移”してサブミリ波領域で観測することが可能だ。4年生実験では、世界最大のサブミリ波望遠鏡アルマや当研究室が開発に参画するサブミリ波望遠鏡アステを軸に、世界各地の電波望遠鏡や可視赤外望遠鏡も併用した遠方銀河の星形成活動や星間物質、超大質量ブラックホールと銀河の共進化に関する観測的研究を行う。
A-2 次世代サブミリ波望遠鏡のための装置開発
当研究室では、次世代の大型サブミリ波望遠鏡の性能を飛躍的に向上させる、以下の技術開発を行っている: (1) 電波波面の撹乱を実時間で補正するミリ波補償光学技術、(2) 超伝導共振器技術を利用した超広帯域サブミリ波分光器。これらは世界に類を見ない試みであり、新しいアイデアがあれば4年生でも先端分野を切りひらくことが可能である。これらの開発プロジェクトに主体的に参加し、既存の電波望遠鏡に搭載し、世界初の実証実験に取り組む。
A-3 銀河系及び近傍銀河のNANTEN2ミリ波・サブミリ波望遠鏡による星間物質の観測とデータ解析
天の川銀河や近傍銀河の星間分子ガスの広域な分布や物理状態を探るため、我々は口径4mのNANTEN2ミリ波・サブミリ波望遠鏡を南米チリアタカマ高地(標高4865m)に設置し、星間分子・原子スペクトル線の観測を行っている。名古屋大学から望遠鏡を遠隔操作し、電波分光観測の方法を学ぶとともに、銀河系中心部、大小質量星形成領域、超新星残骸、系外銀河等の各種天体の観測的研究を行う。
A-4 NANTEN2マルチビーム受信器システムおよびソフトウェア開発
サブミリ波観測に好適なチリアタカマ高地の特長を最大限活かしながら、分子スペクトル線の観測効率をさらに高めるため、NANTEN2望遠鏡に搭載する多波長・多ビーム同時受信システムの開発を進めている。この開発実験に参加し、ヘテロダイン受信機やデジタル分光計の開発、および各種運用・制御ソフトウェア、データ解析用ソフトウェアの開発を行う。

● U研(宇宙物理学研究室)
U-1 赤外線天文衛星「あかり」などによる赤外線データの解析(Uir)
赤外線天文衛星「あかり」には、本研究室が中心になって開発した遠赤外線観測装置 FIS に加え、近・中間赤外線カメラ IRC と二つの観測機器が搭載された。天体からの赤外線放射の源は、主に星間空間に漂う固体微粒子(有機物・鉱物)の熱的放射や、原子・分子ガスのスペクトル線である。赤外線の観測を行うことで、我々の銀河系の星間空間や星形成領域の物理状態、銀河の星形成活動史などを調べることができる。本研究室が作成した「あかり」赤外線全天マップを中心に、「あかり」を含むさまざまな赤外線望遠鏡で取得された膨大な観測データから、面白そうな天体(銀河や惑星形成円盤など)を選んで、その天体の赤外線放射の特性を学ぶ。また、その過程を通して、天体画像データ解析や赤外線観測装置について習熟する。
U-2 次世代衛星用の赤外線検出器・冷却光学系の開発・評価(Uir)
次世代の赤外線天文衛星用の装置開発につながる基礎技術を身につけるべく、赤外線カメラや冷却光学系の新しい評価技術の開発などの実験に参加してもらう。実験を通して、低温・赤外線検出器の技術を身近に体験し、計測器の制御・実験データ取得の基礎を学ぶ。あるいは、光学干渉計を用いた鏡の低温面形状測定などの実験に参加し、低温反射光学系の設計・計測の基礎を習得する。
U-3 地上望遠鏡および気球望遠鏡のための赤外線分光器の開発(Uir)
南アフリカ天文台サザーランド観測所1.4 m望遠鏡IRSF用の近赤外線分光器、またはインド気球望遠鏡用の遠赤外線アレイ分光器の開発を行う。これらの分光器の開発を通じて、天体観測装置の開発に必要な知識・技術を広く習得する。より具体的には、
1.幾何光学をもとにコンピュータによる光学シミュレーションを行い、光学系の製作・調整をする。
2.加重/熱による材料の変形を考慮した3次元CADによる機械設計をおこない、製作する。
3.赤外線検出器の原理を理解し、検出器の性能評価とその制御回路を製作する。
4. 実際に手を動かして、分光器の開発を行う。
U-4 次世代宇宙X線・ガンマ線観測衛星のための装置開発(Uxg)
宇宙で最も高温な天体はX線を強く放射し、そこで生まれる非熱的粒子はMeVへと放射を広げるため、X線・MeVガンマ線の観測は高エネルギー宇宙を探る鍵である。その観測精度を革新すべく、次世代の観測装置を開発している。格段に高い角分解能をもつ次世代X線望遠鏡を開発しており、太陽X線観測や、SuperDIOSなどの将来X線衛星への適用を目指している。望遠鏡を宇宙の過酷な熱環境から守る熱制御薄膜の開発でも世界の先端にある。2021年度に打ち上がるX線偏光観測衛星IXPE、2022年度のX線精密分光衛星XRISMに続き、太陽観測ロケットFOXSIや、ガンマ線バースト衛星HiZ-GUNDAM、硬X線の将来衛星FORCE、地球磁気圏X線撮像 GEO-X 計画などの将来計画にも参加している。また、FORCE衛星の中核として搭載予定の高感度硬X線イメージャーを開発している。その先端技術を生かしてさらに将来の高感度MeV観測を切り開く新しい気球実験も進めている。加えて、自然界で唯一知られる静電場粒子加速として、雷雲MeVガンマ線の観測研究では世界最先端にある。4年実験では、X線望遠鏡、熱制御膜、硬X線・MeVガンマ線観測装置の開発に取り組む。実験を通じて、宇宙の高エネルギー現象観測を目標とした、設計・製作・評価の一連の研究開発を学び、X線光学、検出器技術の基礎を修得し、プロジェクト型の研究推進を身につけることを期待する。
U-5 X線天文衛星のデータ解析による高エネルギー宇宙の観測的研究(Uxg)
宇宙にはブラックホールや銀河団など、数千万度の高温プラズマや高エネルギー粒子にあふれ、X線で明るく輝く高エネルギー天体が沢山ある。日本で打ち上げられた5・6番目のX線天文衛星である「すざく」や「ひとみ」、NASAのX線衛星Chandraと、硬X線衛星NuSTARや、ESAのX線衛星XMM-Newtonなどの観測データを解析し、宇宙の高エネルギー現象の解明に挑戦する。具体的には、天の川銀河系内の高エネルギー放射源、大規模構造の中での銀河団の分布やその衝突現象、ブラックホール、中性子星、恒星フレアなどの観測的研究を行い、それぞれのデータ解析技法と背景にある物理を学び、観測宇宙物理の基礎を習得する。
U-6 原始重力波検出のための光バネ量子ロッキングによる標準量子限界の打破技術の開発(Uxg)
宇宙重力波望遠鏡DECIGOは、インフレーションの時期に発生したとされる原始重力波を検出し、宇宙誕生の謎を解き明かすことを主目的とする日本の将来計画である。しかし、原始重力波の検出をより確実に行うためには、DECIGOの目標感度をできるだけ高めておく必要がある。そこで、我々は『光バネを利用した量子ロッキング法』を新たに考案した。これを使うと、不確定性原理によって規定される標準量子限界を広帯域で打破する感度の実現が可能である。本研究では、この手法の理論解析と原理実証実験を行う。
U-7 原始重力波検出のための変位雑音フリー中性子干渉計の開発(Uxg)
原始重力波を捉えるために最も適した周波数帯は0.1~1 Hzである。しかし、地上における標準的なレーザー干渉計型重力波検出器においては、地面振動、懸架の熱雑音、輻射圧雑音などの鏡の変位雑音のため、この周波数帯における感度は低い。そこで、我々は、以前に開発した『鏡の変位雑音キャンセル法』と『中性子干渉計』を組み合わせて、『変位雑音フリー中性子干渉計』を新たに考案した。これを使うと、地上においても原始重力波の検出ができる可能性がある。本研究では、この手法の理論解析と原理検証実験を行う。
U-8 原始重力波検出のためのジャグリング干渉計の開発(Uxg)
地上における標準的なレーザー干渉計型重力波検出器においては、低周波数帯における感度は低い。そこで、我々は、干渉計の鏡を周期的に自由落下させ、地面振動雑音と懸架の熱雑音を取り除き、低周波帯における感度を飛躍的に高める『ジャグリング干渉計』を新たに考案した。これを使うと、地上においても原始重力波の検出ができる可能性がある。本研究では、この手法のプロトタイプを製作し原理検証実験を行う。また、本プロトタイプを用いて宇宙重力波望遠鏡DECIGOの地上実証試験も行う。


物性物理学分野 

● I研(固体磁気共鳴研究室)
固体磁気共鳴研究室は、核磁気共鳴(NMR)法を主な測定手段として、物質の物性を支配する普遍的な物理法則の解明を目指し、研究を行っている。NMRは、原子核をプローブとして、電子の一番近くにいる核の位置から電子状態を観測することができるので、ミクロな立場から電子系の磁気的性質や電気的性質を知ることができる。
電子の基本特性であるスピン、軌道、電荷に依存した電子の間の相互作用により、出現する電子の基底状態、励起状態を、電子のわずかな対称性の破れを高感度に検出することで、その電子状態の起源を解明する。
4年生では、以下の実験テーマの研究を通して、実験研究の進め方を修得するとともに、これまでに学んだ量子力学、統計物理学や電磁気学を元に、現実の物質の物性をどのように理解することができるのかを体験する。
I-1 強相関電子系の磁性
電子系の多体効果は固体物理学の中で重要な問題の一つである。電子間相互作用が強い電子系は強相関電子系とよばれ、電子が内部自由度として持っている電荷、スピン、軌道の自由度がからみあった多彩で新奇な物性が現れる。典型的な強相関電子系である3d遷移金属酸化物や化合物を対象に、試料合成からはじめて、試料評価および微視的測定としてNMR実験を行う。温度や圧力を変えて起きる量子スピン液体、超伝導、励起子絶縁体などの研究を行う。
I-2 鉄系超伝導体の物性
2008年に発見された鉄系超伝導体は、金属系超伝導物質、銅酸化物高温超伝導物質とは異なった超伝導機構を持つ新規超伝導物質として注目され、現在、超伝導発現機構や物性に興味が持たれている。種々の鉄系超伝導体の試料合成を行い、X線回折による試料評価からはじめ、電気抵抗、帯磁率、比熱などの巨視的物理量の測定およびNMR測定を行い、超伝導発現機構の研究、その起源となるスピンゆらぎ/軌道ゆらぎに関する研究を行う。また、鉄系超伝導関連物質、金属遷移金属化合物の物性についても探究する。
I-3 超流動
どんなに冷やしても凍らない液体であるヘリウム3や4は低温で量子液体として振る舞う。その秩序状態が超流動で、これまで多くの研究が進められた。このヘリウムを10の-9乗mサイズのナノ細孔中に閉じ込め、ヘリウムの運動を方向を制御することで次元性を制御した新しいヘリウム量子流体が発現する。この状態での熱特性、磁性を測り、この新しい量子流体の基底状態を調べていく。特に一次元では、二次元以上とは全く異なる量子凝縮系の実現が期待されています。
I-4 NMR測定技術の開発
強相関電子系の特異な物性は極限条件下で現れることが多く、高圧力、高温、高磁場、極低温などの条件下でのNMR実験行う必要が出てくる。また、そのために、高圧、高温で使用できるNMRプローブの開発、NMR装置の高感度化、NMRデータ解析プログラムの開発などを行う。また、NMR測定装置の自動化を拡張も進める。さらに、光検出磁気共鳴といった最先端の技術開発を進める。これらは、将来新しい高温超伝導体の設計、従来の性能を凌駕する量子コンピュータやMRI(磁気共鳴画像装置)のコア技術へと進展する可能性を持つ。

● J研(ナノ磁性・スピン物性研究室)
J研究室では、ナノスケールで初めて顕在化する新しい磁性・スピン物性・超伝導物性の解明と、物理学の新概念の創出を目指した研究を行っています。ナノ物性の研究では、新現象の発現の舞台を自らで人工的に自在に設計・創製することで、従来アプローチすることが困難であったような領域への扉を開くことができます。電子系・フォノン系・スピン系が強く結合したミクロな界面状態の設計により新規で面白い現象が次々に発見されています。また、これらの現象の起源の解明は、逆に物理現象を操作する方法論や原理の提案にもつながるという点からも興味深いと言えます。4年生の皆さんは、単結晶薄膜成長、ナノ微細加工、電気・磁気測定、高周波測定等の実験技術の習得から始め、ナノ磁性やスピントロニクスに関する物性物理研究の醍醐味を体験できます。最近の進めている研究の例のいくつかを示します。
J-1 界面マルチフェロイクスと交差相関
磁気モーメントは磁場と、電気分極は電場と相互作用することは一般的ですが、磁気モーメントが電場と、電気分極が磁場と相互作用する物質があります。マルチフェロイクスと呼ばれるこの物質群は非常に稀です。しかし、物質の界面を利用することで人工的に設計・創製することが可能です。この研究では、磁気モーメントと電気分極の相互作用のメカニズムの解明を通して、電気で磁石を操作する原理の提案を目指します。
J-2 トポロジカル磁気構造とスピンダイナミクス
ナノ磁性体におけるトポロジカル構造(位相欠陥・位相テクスチャー)が誘発するスピンダイナミクスの物理の解明を目指します。異種物質接合(強磁性体・強誘電体・超伝導体)からなるトポロジカル界面を人工的に形成することで、トポロジカル構造とスピンダイナミクスとの相関を明らかにします。さらに、スピンダイナミクスの外部制御を可能とする革新的機能の創出まで狙っています。
J-3 界面交換結合とマグノン伝播
強磁性の低エネルギー励起状態にスピン波と呼ばれる形態があります。このスピン波を量子化した準粒子はマグノンと呼ばれます。マグノンは強磁性体中を伝播しますが、その伝播特性は磁性体/反強磁性界面における交換結合(交換バイアス効果)などに大きく影響を受けます。この研究では、磁性体/反強磁性界面における交換結合とマグノン伝播との相関に関する物理の解明を目指します。
J-4 人工反強磁性体の静的・動的スピン現象
ナノスケールの強磁性体と非磁性体を交互に積層した多層膜構造では、非磁性体の厚さに依存した電子状態の変調により、強磁性体の磁気モーメントが互いに平行に配列する状態と反平行に配列する状態を取ります。反平行に配列した状態は人工反強磁性と呼ばれ、最近注目を集めています。この研究では、人工反強磁性体の電子状態とその中を伝播するスピン波の物理の解明、さらにその外部制御を狙っています。
J-5 磁性/超伝導ナノ界面における電子相関
磁性体/超伝導体の界面では、電子間の相互作用を介して磁気秩序と超伝導秩序が影響を及ぼし合います。超伝導体にナノスケールで侵入する磁気秩序は、スピンの向きが揃った超伝導キャリアを有する非従来型の超伝導状態を誘起することができます。逆に、磁性体に侵入する超伝導秩序によって、磁化の向きを制御することも可能です。この研究では、このような磁性による超伝導の制御、あるいは超伝導による磁性の制御を可能にするナノ界面での微視的な電子間相互作用の解明および新規現象の開拓を行います。

● V研(機能性物質物性研究室)
V研は機能性物質の物理学を研究する研究室です。機能性物質とは、磁石になる、電気を通す、熱を蓄えるといった、私たちに役に立つ性質(機能)を示す物質のことです。V研では未解明の機能を持った新物質、「新しく、面白く、役に立つ物質」を自ら創り出し、その機能を計測し、機能が発現する仕組みを理解することを研究テーマとします。こうした研究を通じて、物理学の新分野の開拓を目指します。以下に実験テーマのいくつかの例を示します。
V-1 相互作用の競合から生じる新物性
固体の中には、電気的、磁気的、機械的など様々な相互作用があり、いくつかが競合する場合があります。競合の仕方によって物質は予想もしない応答を示します。最近、私たちは相互作用が拮抗することによって生じた新規な量子スピン系を見出しました。また、複数の基底状態が競合するCa2RuO4の非線形応答を調べています。相互作用が競合するような特異な結晶構造を設計し、未知の物性を開拓します。
V-2 半金属における巨大機能の開拓
半金属とは伝導バンドの下端のエネルギーが、価電子バンドの頂上のエネルギーより低くなる(バンドギャップが負)の物質です。これまで金属や半導体・絶縁体は物性研究や機能開拓が進んできましたが、半金属は未解明の物性が多い、未知の物質群です。最近私たちは室温で強磁性を示す半金属や、従来の低温熱電性能を遥かに凌駕する半金属を発見しました。このような非従来型の半金属に眠る未知の物性を精密測定によって掘り起こします。
V-3 ユニークな結晶構造を持つ機能性物質の開発
 物質中の原子配列である「結晶構造」は物質の性質を決める重要な要素であり、ユニークな結晶構造においてはユニークな物性が発現する可能性があります。本テーマでは、ユニークな結晶構造を持つ物質に注目し、その物性測定や放射光構造解析により新奇な伝導・磁気特性を持つ物質を開拓します。

● Y研(応答物性研究室)
Y-1 優れた機能性と環境親和性を兼ね備えた誘電体
 誘電体は電気伝導体や半導体と並んで、今日の科学技術を支える重要な物質系です。系統的な物質合成と、精密な物性計測を通して、主に地殻に豊富に含まれる軽元素を物質の構成要素としつつ、優れた機能性を発現する新しい誘電体を設計・開発します。具体的には、巨大な誘電率を持つ物質や光によって誘電率が変化する物質、温度変化によって発電する物質などを創製します。
Y-2 新しい強誘電体の探索
自発的にN極とS極に分かれた物質を強磁性体と呼びますが、一方で自発的に+極と-極に分かれた物質は強誘電体と呼ばれます。強誘電体は通常の誘電体では生じない様々な機能を示し、不揮発性メモリやアクチュエータ、非線形光学結晶等に広く応用されています。私たちの研究室では、結晶構造と構成元素、そして格子揺らぎの間の相関に着目して、新しい強誘電体を探索します。
Y-3 準結晶の新奇物性
「準結晶」は、原子配置の並進対称性について特殊な等比数列的な規則性(準周期性)をもち、結晶と似たような回折像が現れるが、その回転対称性は結晶では許されないものであり、アモルファスとも異なる「第3の固体」です。周期的ではないため、電子状態は通常の結晶とは異なっていると考えられています。長距離の磁気秩序や超伝導など電子の凝縮状態も含めて、準結晶特有の電子状態に起因する新奇物性を探索します。
Y-4 新しい準結晶・近似結晶の探索
広義の結晶(準結晶・近似結晶を含む固体)を舞台にした固体物理学を基本にして、新しい物理現象の発見と周期・準周期性で物性をコントロールする新たな手法の基礎研究を進めています。新奇物性(強相関電子系を含む電子物性、格子物性、…)が生み出す機能性材料の創成を目指して、新しい準結晶・近似結晶の探索を行い、高次元空間を利用したマテリアルデザインと広義の固体物理学の学理を追求します。


生物物理学分野 

● D研(生体分子動態機能研究室)
タンパク質や核酸などの生体高分子は、構造変換や自己集合、さらには他分子との結合・解離といった様々な動的現象を介して独自の生理機能を発揮しています。生体分子の動作原理を理解するためには、個々の分子が機能している様子を直接可視化し、分子の構造動態や周囲の分子との動的相互作用を一分子レベルで解析することが重要となってきます。D研では溶液下にある分子をナノメータースケールの空間分解能でリアルタイム観察できる高速原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)技術をベースに、新規機能の開発や他の先端一分子計測手法との複合化を進め、新しい動的構造生命科学の開拓を目指しています。4年生では、装置開発や調整を通じて、機械設計や電子回路技術、光学技術、計測および解析ソフトウェアの開発等を通じてものづくりの知識と技術習得も目指します。
また、生体分子の高次構造構築原理の解明を目指し、X線回折実験などによる高分解能立体構造解析も行っています。
D-1 生体機能分子の動態解析と機能発現機構の解明 
多くのタンパク質は周囲の環境変化や基質の結合や分解、解離などの化学反応を引き金として、局所的な構造変化とその時間発展に伴う大局的な構造変化や多分子との協奏的な相互作用により独自の機能を発揮します。モータータンパク質や膜タンパク質などを対象に、高速AFMにより構造変化や分子間相互作用のダイナミクスをリアルタイムで可視化し、詳細な解析を行うことで、生体分子の作動原理を解明します。
D-2 高速AFMの高度化と新規顕微鏡技術の開発
生体分子では構造だけでなく、電気特性や力学特性の局所分布とそれらの時間発展も機能に極めて重要な役割を果たしていると考えられています。高速AFMでは通常試料の表面構造をイメージングしますが、物性分布を可視化するなどの新規機能の開発を進めます。また、蛍光顕微鏡などの先端一分子顕微鏡との複合化により、複数のタンパク質が関与する複雑な系の動態解析が可能な装置の開発も目指します。
D-3 人工高分子材料の動的機械特性計測手法の開発と応用
高速AFMは人工超分子や高分子ゲル、高分子フィルムなどのナノスケール構造及び力学物性が計測できる手法としても最近注目を集めています。現在、力学的に安定でかつ多刺激により容易に分解可能な高分子材料の開発に向けたプロジェクトを実施しており、その一環として、数十nmから数μm程度の大きさを有する高分子微粒子およびその水分散体(合成ラテックス)の力学的な安定性と、多刺激応答による微粒子分解の制御因子を高速AFMによるナノスケール計測で解明する研究を進めています。
D-4 視物質ロドプシンの高分解能時間分解構造解析 
光受容体ロドプシンを対象に、放射光およびX線自由レーザーを用いた最先端の結晶構造解析により高精度で分子機構を解明し、それに基づいて新しい機能を持った光駆動タンパク質を創成します。

● G研(光生体エネルギー研究室)
蛋白質は40億年の生命の進化によって創られた極めて精巧なナノデバイスです。植物や藻類が行う光合成では、蛋白質中に配置された色素分子や金属イオンによって、極めて高い量子効率の光エネルギー変換が実現します。この最も基本的な生命現象を理解するためには、この生体ナノデバイスの分子機構を明らかにする必要があります。 振動分光法、電子スピン共鳴、レーザー分光、分子軌道計算などの物理的手法を駆使して、光合成蛋白質の機能解明を目指します。4年生では生物試料の調製や分光測定、計算機による解析など、研究の基本的技術を習得しながら自らの研究課題に挑戦します。
G-1 光合成蛋白質のエネルギー移動および電子移動機構の解明
光合成では植物に光が照射されると、クロロフィルなどの色素による光吸収、励起エネルギー移動、電子移動、プロトン移動などの反応がフェムト秒からミリ秒の時間オーダーで連続的に起こります。また極低温において中間状態をトラップすることも可能です。様々な分光測定を用いてこうした反応を原子・分子レベルで追跡し、反応の分子機構とシステムの作動原理を解明します。
G-2 光合成酸素発生機構の解明
植物の光合成による酸素発生のメカニズムは未だ解決されておらず、光合成研究における最大の謎として残されています。 酸素発生は、蛋白質中に存在する金属クラスター(4つのマンガン原子と1つのカルシウムからなる)において、水の光分解によって行われますが、その構造も反応機構についても詳しいことは明らかとなっていません。赤外分光法や電子スピン共鳴法などを駆使して、酸素発生系の構造と反応メカニズムの解明を目指します。
G-3 生体測定技術の開発
生体試料の多くは濃度が薄く(量が少ない)壊れやすいという特徴あります。 そのため、測定にはさまざまな工夫が必要です。 測定系や試料部を自ら加工・製作し、新しいユニークな測定技術の開発を目指します。

● K研(細胞情報生物物理研究室)
生命現象には、様々な時間・空間スケールにわたって情報の変換や伝達が伴います。K研では、生体高分子、細胞を対象として、生命現象に見られる情報変換・情報伝達の機構や過程を研究しています。分子レベルの研究では、蛋白質の構造形成機構や複合体形成を伴う機能発現機構に焦点をあてます。一方、細胞レベルの研究では、シナプスにおける情報伝達機構に焦点をあてます。以下、それぞれの研究テーマについて具体的に記します。
K-1 蛋白質の構造形成/複合体形成を伴う機能発現機構の研究
蛋白質は、アミノ酸が多数連なってできた生体高分子であり、生命現象を担う機能性分子です。蛋白質の機能発現のためには、鎖状分子が折れたたみ、天然立体構造をとることが必須であり、さらに、複数の蛋白質分子が複合体を形成することもあります。蛋白質の構造形成・複合体形成およびそれに伴う機能発現は、生命科学と物質科学との境界に位置する現象であるにもかかわらず、その機構はよく分かっていません。蛋白質の構造形成・複合体形成の物理化学的機構が解明されれば、生命科学の地平線は大きく広がるはずです。物理学特別実験では、(1) 独自に開発した高速反応測定法や分光学的手法を用いた構造形成の物理化学的機構の研究、(2) 複合体形成を伴う概日リズム機能発現機構の研究を行います。具体的な実験内容は、以下の項目から適宜選択します。変異体蛋白質の作成とそれに伴う遺伝子操作、蛋白質の発現・精製、蛋白質の分光学的測定、構造形成・機能解析。
K-2 シナプスにおける情報伝達機構の研究
ニューロンとニューロンの接合部であるシナプスでは、活動電位が引き金となって生じるシナプス小胞の細胞膜との膜融合を通じて開口放出される神経伝達物質により信号が伝達されます。また、シナプスは信号を繰り返し伝達することにより、伝達効率が変化する性質(可塑性)を持っており、これが記憶・学習など脳の高次機能の基礎となっています。カエルの神経筋接合部シナプスを標本として、シナプス小胞の膜融合機構やシナプス可塑性の機構について、電気生理学的測定や蛍光顕微鏡を用いたイオン動態イメージング法により研究します。


宇宙地球物理学分野 

● AM研(大気圏環境変動研究室)  
近年の温室効果ガスの増加やオゾン層破壊など、地球の大気環境は産業革命以降の人間活動の急速な拡大によって様々な影響を受けている。他方、太陽活動の変化に伴う紫外線や太陽風の変動、宇宙からの銀河宇宙線、地球上の火山活動等の様々な自然要因による影響も受けている。将来の大気環境を正しく予測するために、こうした自然的・人為的要因による変動を明らかする必要がある。大気圏環境変動(AM)研究室では、ミリ波(電波)と赤外線遠隔計測の最先端技術を駆使して、地上からのフィールド観測や室内実験を通して大気環境変動の諸問題に迫っている。物理の知識と技術をベースに地球環境の研究に向き合う情熱と意欲をもった学生を歓迎する。
AM-1 極域の微量分子観測データから調べる太陽活動の地球大気影響
電気双極子モーメントを持った大気中の分子は、回転遷移によりミリ波の輝線を放射する。この輝線の形状を計算機で逆問題解析することで微量分子の高度分布や柱密度を導出することができる。AM研では南極の昭和基地および北極域のトロムソ(ノルウェー)で微量分子の長期観測を行なっている。4年生実験では、データ解析プログラムの開発、およびそのプログラムを用いた観測データの解析を通して、極域で起きる微量分子の変動の実態を明らかにし、超高層大気の研究グループとともに、太陽活動の変動が極域の大気環境に与える影響を観測的に明らかにする。
AM-2 ミリ波大気観測のための次世代観測装置開発
大気から放射されるミリ波輝線の多くは非常に微弱で、数時間のタイムスケールで十分なS/N比のデータを取得するには、超低雑音の超伝導受信機を用いた観測が必須である。AM研では国立天文台の研究グループと協力して多周波同時観測システムの開発に成功し、昭和基地において世界で初めて230GHzと250GHz帯での地球大気分子同時観測を成功させた。さらに多ビーム観測に向けた平面統合型の超伝導受信機の開発にも着手しようとしている。4年生実験では、こうした新たな装置の開発基盤となる要素技術の開発実験を行う。意欲のある4年生に開発の最前線に参加してもらい、世界初の観測装置を創る一翼を担ってもらいたい。
AM-3 衛星観測データおよびモデルシミュレーションから調べる地球規模の微量分子変動
地上からの観測では上空の大気の時間変化を連続的に捉えることができるが、地球に固定された定点の上空しか観測できない。一方地球の周回軌道にある人工衛星は地球上の様々な場所のデータを取得することができるが、ある定点の上空の観測は衛星がその地点を通過する一瞬だけしかできない。このように地上観測と衛星観測は相補的で、地球規模の現象を的確に捉えるためには、地上観測だけでなく、多様な衛星観測データやモデルシミュレーションとの比較・組み合わせが効果的である。4年生実験では、公開された衛星データやシミュレーションデータを読み込み、視覚化し地上観測データとの複合利用を進めるためのツール開発を行うこと、さらに機械学習や深層学習等のいわゆるAIも活用した新たな大気組成変動現象の解析手法を開拓すること等を目指す。

● CR研(宇宙線物理学研究室)  
宇宙線は宇宙から地球に降り注ぐ陽子、ガンマ線、ニュートリノなど、高エネルギー素粒子の総称である。宇宙線物理学は、宇宙物理学と素粒子・原子核物理学にまたがる境界分野であり、その最前線が研究対象である。また宇宙線は宇宙磁場の影響を受けながら地球に降り注ぎ環境に影響を与えうる。CR研は、素粒子と宇宙の両方に関心を持つ、視野の広い意欲的な学生を求める。
大学院では、スーパーカミオカンデでのニュートリノ研究や、液体キセノンを用いた暗黒物質探索XENONnT実験、フェルミガンマ線衛星、CTA実験での宇宙ガンマ線観測による宇宙線加速機構の解明や暗黒物質の探索、LHCでの超高エネルギー宇宙線のハドロン相互作用の研究LHCf実験、太古の宇宙線バースト現象の研究、など宇宙物理から加速器実験まで幅広い研究を行っている。4年生では、宇宙線テキストブック(小田稔「宇宙線」(裳華房)、D. Perkins,”Particle Astrophysics” (Oxford Univ. Press))の輪講を行いながら、上記の研究テーマに関連した実験やデータ解析を行う。また、データサイエンス教育にも力をいれており、データ解析ツールROOTの講習会や、機械学習によるデータ解析などにも取り組んでいる。
CR-1 液体キセノン検出器による宇宙暗黒物質の直接探索
宇宙の重力の大半を担う暗黒物質は、未知の素粒子WIMPと考えられている。CR研では、液体キセノンを用いた暗黒物質探索実験XENONnT実験を行いながら、将来の40トン液体キセノン実験DARWINへ向けた開発研究を行っている。4年生では、この新しい液体キセノン検出器のプロトタイプの開発や、それに用いる低ノイズ光検出器の開発など、将来の暗黒物質探索を目指した研究を行う。
CR-2 宇宙ガンマ線による宇宙線物理学
電荷を持たない宇宙ガンマ線は宇宙磁場に関わらず直進し、暗黒物質対消滅の探索や、宇宙線加速の解明が可能となる。CR研では、フェルミガンマ線衛星や、現在建設中の空気チェレンコフ望遠鏡CTAを用いて、暗黒物質からのガンマ線探索や、超新星残骸などの高エネルギー宇宙線源の研究を行っている。4年生では、これらの実験に用いる半導体光検出器や信号処理回路の開発や、フェルミ衛星のガンマ線観測データ解析に取組み、宇宙ガンマ線を用いた暗黒物質探索および宇宙線加速機構の解明に取り組む。
CR-3 水チェレンコフ検出器を用いたニュートリノ研究
ニュートリノはとても軽く中性で左巻きしか存在しない謎の粒子で、宇宙や素粒子の成り立ちの鍵を握っていると考えられる。CR研では、地下水チェレンコフ検出器スーパーカミオカンデを用いたニュートリノ研究や、その後継のハイパーカミオカンデへ向けた開発研究を行っている。4年生では、機械学習を用いたニュートリノデータ解析アルゴリズムの開発や、ハイパーカミオカンデでの光検出器の性能評価などの研究を行う。
CR-4 超高エネルギー宇宙線のハドロン反応の研究
 宇宙線の最高エネルギーは10の20乗eVに到達し、LHCを上回る超高エネルギーでのハドロン反応が起こっている。CR研では、LHCやRHICなど陽子陽子コライダーで得られた超高エネルギーハドロン反応データの研究を行うLHCf実験・RHICf実験を行っている。4年生では、これらのデータ解析や、それを適用した大気中での宇宙線シャワーシミュレーションの研究などを行う。
CR-5 宇宙線放射性核による過去の宇宙線変動の研究
 宇宙線によって作られる年輪中の放射性炭素14や南極氷床中の放射性ベリリウム10などの宇宙線放射性核種の測定により、過去の宇宙線量の変動を研究する。4年生では、これら年輪や南極氷床中の宇宙線放射性核の測定やデータ解析に取り組み、過去に起こった超巨大太陽フレアや近傍超新星爆発の探索や、太陽の11年周期活動との相関研究を行う。

● SSE研(宇宙空間物理学観測研究室)  
地球や惑星の周辺の宇宙空間は電離圏・プラズマ圏・磁気圏で構成される多様な領域であり多彩な物理機構が発現している。例えば、太陽風プラズマと固有磁場、大気プラズマ・中性大気・下層大気などが複雑に相互作用し、極域にはオーロラが出現し、磁気圏全体ではサブストーム・宇宙嵐と呼ばれる大規模変動が発生する。これらの物理過程は、太陽系内のみならず遠方宇宙でも基礎的かつ普遍的であるため、我々にとって最も身近で詳細な探査が可能な地球、あるいは様々な太陽系内惑星の超高層大気や周辺の宇宙空間で生起している自然現象とその変動過程を実証的に解明することは、宇宙・地球・惑星に関する包括的な理解につながる。本研究室では、最先端の科学観測機器を独自に開発し、海外・国内での拠点型・ネットワーク型の地上フィールド観測と宇宙空間に展開する探査機を用いた直接観測を両輪とした観測的・実験的研究を行っている。
詳しくは”https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/isee/research/study03.html”を参照。
SSE-1 宇宙空間探査に関する計測技術開拓・観測データ解析
宇宙空間と地球・惑星環境との間に生起する多様な自然現象に関して、それらの素過程や物理機構を解明するには、探査機やロケットなどの飛翔体を用い、その場で直接観測することが不可欠となるため、我々は様々な探査衛星計画の立案・推進を主導してきている。本課題では、クリーンルーム内の各種設備・装置により宇宙空間に近い環境を再現し、宇宙探査機に搭載する観測器の研究・開発を行う。宇宙と地球・惑星の結合系で最も基本的な構成要素としての宇宙プラズマ・中性粒子を、飛翔体搭載用の分析器で直接計測するためには、研究・開発の段階において地上で十分に実験・試験を行うことが必要となるため、それに必要なビームラインなどの装置・設備の構築も課題となる。あるいは、これまでの探査衛星計画にて取得された宇宙プラズマの観測データを解析することで、宇宙と地球・惑星の境界領域での物理機構を研究する。
SSE-2 北欧極域上部中間圏・下部熱圏の大気変動研究
極域上部中間圏・下部熱圏(高度70-120 km)の大気は、大気下層から伝搬する各種大気波動(大気潮汐波、大気重力波、プラネタリー波)の影響を受け、大気温度・風速は、時々刻々変動する。さらに、宇宙から太陽風エネルギーの流入を受け、オーロラ等の擾乱が加わる。我々は、北欧ノルウェーで運用しているEISCATレーダー、MFレーダー、流星レーダー、ナトリウムライダーデータを用いて研究を進めている。4年生は、これらの観測装置の原理を学び、解析研究を行う。
SSE-3 電波・光学装置による超高層大気のグローバル観測
オーロラをはじめとする極域における超高層大気の擾乱により励起された大気波 動は、中低緯度にまで伝搬し、超高層大気に全球規模の変動を引き起こす。本課題では、超高層大気が発する「大気光」とよばれる微かな光を捉えるための高感 度光学観測装置や、世界各地のGPS データを利用して、超高層大気が変動するメカニズムを明らかにする。また、超高層大気中の電離圏プラズマの擾乱は、衛星 放送や通信、GPS測位にも障害をもたらすため、電離圏による受信障害の影響を 軽減する研究も行っている。
SSE-4 ディフューズオーロラと高エネルギー電子降下の観測研究
オーロラの時間変動と空間分布には様々な特徴がある。多様な形態の中でも、空間構造がはっきりとしない「ディフューズオーロラ」が発生すると、数MeVに達するエネルギーを持つ電子(相対論的電子)が大気の深部にまで貫入していることが、近年の研究によって明らかになってきた。オーロラの発生高度(100-300 km)を突き抜け、高度60 km付近にまで到達する高エネルギー電子は、中間圏高度での異常電離とオゾン破壊を引き起こす。本研究では北欧と北米のカメラ、大型レーダー、電波測定装置と衛星を組合わせた総合観測を行い、測定値を多角的視点で解析することで、オーロラ形態と高エネルギー電子の降込みにどのような物理的関係があるのか探索する。

● SST研(太陽宇宙環境物理学研究室)  
SST研は太陽と地球及び惑星間空間から成る「太陽宇宙環境」を総合的に理解し、その構造とダイナミクスを包括的に探る研究を、数値シミュレーション(数値実験)、数値モデリング、データ解析などを駆使して行っている理論系研究室です。SST研の研究対象は太陽フレアや黒点などの太陽活動、太陽風と惑星間空間ダイナミクス、オーロラや磁気嵐などの地球電磁気現象、磁気リコネクションなどの宇宙プラズマ現象、数値シミュレーション手法開発など多岐に亘ります。
太陽フレアや磁気嵐などによる太陽宇宙環境の変動は人工衛星や宇宙飛行士のみならず、航空・通信・電力網などの社会インフラにも様々な影響を与え、「宇宙天気災害」を引き起こす場合があります。また、地球の気候にも影響を与える可能性があります。それゆえ、SST研では様々な太陽宇宙環境現象のメカニズムを解明するのみならず、それらの変動を予測することで宇宙天気災害を未然に防ぐための研究も行っています。詳しくはホームページ(https://is.isee.nagoya-u.ac.jp/)をご覧ください。
SST研では下に示す研究課題などについて学生のみなさんが自らの興味に基づいてテーマを設定し、研究(講究)を行うと共に、そのために必要な太陽・恒星物理学、宇宙空間物理学、プラズマ物理学などの基礎を学ぶためのセミナーを行います。また、研究に必要な計算機利用とプログラミングに関するトレーニングも実施します。
SST-1 太陽フレアとコロナ質量放出の発生機構の解明と予測研究
太陽で発生する巨大爆発現象である太陽フレアとコロナ質量放出の発生機構を探ると共に、事前にその発生を予測するための基礎的な研究を数値計算と観測データの解析を通して行います。
SST-2 様々な太陽宇宙プラズマ現象の数値シミュレーション研究
太陽黒点の形成、太陽フレアやコロナ質量放出などの爆発現象、太陽や宇宙空間で生じる磁気リコネクション現象など様々な太陽宇宙プラズマ現象の数値シミュレーションを、スーパーコンピュータ等を利用して行い、そのメカニズムを明らかにする研究を行います。
SST-3 多波長観測データ解析による太陽フレア研究
人工衛星や地上望遠鏡で取得された多波長観測データの総合解析を通じて、太陽フレアにおける高エネルギー現象(粒子加速やプラズマ加熱)の物理過程の解明を目指す研究を行います。
SST-4 太陽フレアの発生による地球環境の変動
太陽フレアによる様々な擾乱が地球に引き起こす変動を解明するための研究を行います。太陽から約8分で地球に到達するX線や紫外線による地球大気の電離、数時間で到達する高エネルギー粒子による放射線量の増大、数日で到達する高速太陽風によるオーロラ嵐などを対象とします。

● SW研(太陽圏プラズマ物理学研究室)  
太陽は太陽風(Solar Wind)と呼ばれるプラズマを超音速(毎秒300-800km)で噴出していて、太陽系の惑星をすべて包み込む広大な空間、太陽圏(Heliosphere)を形成しています。この太陽風が如何にして加速されるかは未だ解明されていない大きな謎です。また、太陽圏の全体構造や太陽活動に伴う変動なども観測が乏しいためよくわかっていません。SW研では、独自の大型電波望遠鏡群を用いて天体電波源の「またたき」現象、惑星間空間シンチレーション(Interplanetary Scintillation; IPS)の観測を実施し、取得したデータから太陽風の謎の解明を行っています。IPS観測からは探査機では観測が難しい太陽風の3次元特性を明らかにすることができます。この利点を生かして、SW研では以下のような課題について研究が行われており、卒業研究を通じてプログラミングやものづくりのスキルを身につけることができます。
SW-1 太陽風加速機構の解明
太陽風の加速には太陽の磁場が重要な役割を果たしていると考えられています。SW研ではIPS観測と太陽磁場観測データの比較から太陽風加速とコロナの磁場特性との関連性の研究を行っています。また、太陽近傍で観測を行っている探査機のデータとの比較からも太陽風加速の謎に迫ってゆくことができます。
SW-2 低速風の流源の解明
太陽風には高速なものと低速なものがあり、高速風はコロナホールと呼ばれる低温・低密度の領域が流源とされているが、低速風の流源については定説がまだありません。SW研では、太陽観測衛星「ひので」の観測データとIPS観測データ、太陽磁場データを組み合わせて、低速風の流源の解明を行っています。
SW-3 惑星間空間擾乱の伝搬特性の解明と宇宙天気予報の精度向上
太陽風の擾乱は地球周辺の宇宙環境や超高層大気に大きな影響を与え、さらには我々の生活を支える社会基盤にも障害をもたらすことがあります。このため太陽風擾乱の地球到来を予測すること、即ち宇宙天気予報が社会的な要請になっています。SW研では宇宙天気予報の精度向上を目指して、IPS観測と数値シミュレーションとのデータ同化や探査機観測との比較から太陽風擾乱の伝搬特性の解明を行っています。
SW-4 次世代観測のための大型電波望遠鏡の開発
SW研で独自に開発・運用している電波望遠鏡は国内最大級(約100mのサイズ)の電波天文観測装置です。この後継機として、次世代の太陽圏研究をリードする新しい電波望遠鏡の開発を進めています。フェーズドアレイアンテナ、デジタル信号処理、制御・解析ソフトウェアの開発等を行い、最先端の観測データを取得できます。


Particle Physics

● F laboratory (Fundamental Particle Physics Laboratory)
Since 1980's, we have been carrying out researches for elementary particles physics with nuclear emulsion,which can individually record tracks of elementary particles in sub-micron accuracy. In 2000, for example, we succeeded to find tau neutrino for the first time in the world and established the existence of muon neutrino to tau neutrino oscillation in 2015.
The following are the themes of our current studies. We are also making efforts to develop and improve detectors related to particle physics and astrophysics to promote these themes.
F-1 Study of neutrino physics
The existence of neutrino mass was confirmed by the observation of neutrino oscillation. However, many characteristics are still unknown such as absolute value and hierarchy of mass. Does right-handed neutrino exist? Is the neutrino Majorana particle? Is the CP-violating phase in the lepton sector non-zero? Tackle these challenging issues.
F-2 Directional dark matter detection
NEWSdm is the experiment for dark matter (WIMPS) search with ultra-fine grain nuclear emulsion, which is possible to detect the very short trajectory of the recoil atom caused by collision of with nucleus and dark matter. The goal is to demonstrate its existence and incoming direction of dark matter. This experiment is being started at Gran Sasso Laboratory in Italy. We also promote experimental research to explore the possibilities of dark matter candidates other than WIMPS.
F-3 Balloon borne gamma-ray telescope
Unknown gamma-ray sources exist in Universe such as galactic center gamma-ray excess. To investigate these objects, we promote the GRAINE project, which is balloon-borne gamma-ray telescope with the world's largest diameter ultra-high resolution nuclear emulsion telescope.
We are currently analyzing the Australian flight data in May 2018 and are aiming to demonstrate imaging at the world's highest resolution of gamma-rays imaging. The next flight will be scheduled in 2021 and we are developing the largest telescope, which have the capability of scientific observation as well.
F-4 Development of particle detectors based on technologies including nuclear emulsion’s
We will progress with development of detectors based on nuclear emulsion technology.
Example 1) Detection of unknown short-range force: detection and measurement of wavefunctions of neutrons using ultra-fine grained nuclear emulsion.
Example 2) Development of automatic readout system for nuclear emulsion (speeding up, improvement of image detection)
Example 3) Production of nuclear emulsion from chemical substances and its development.

● N laboratory (High Energy Physics Laboratory)
N-1, N-2, N-3, N-4 Experimental Particle Physics
The goal of particle physics is the understanding of fundamental principles of elementary particles and their interactions. According to the Standard Model (SM), six quarks and six leptons are the fundamental constituents of the matter, and their interactions are mediated by the gauge bosons such as the photon and the W bosons. The SM explains the origin of particle masses by the Higgs mechanism. The N laboratory contributed to the verification of the SM; we confirmed the Kobayashi-Maskawa theory that explains the asymmetry between particles and antiparticles, and more recently discovered the Higgs boson. Now, the researches at the N laboratory focus on the searches for physics beyond the SM. We promote “Super B-Factory Experiment”, “LHC-ATLAS Experiment”, and “Muon g-2/EDM Experiment”. Our research would answer some of the fundamental questions in the Universe, e.g. “What is the Dark Matter?” and “How is the present matter-dominated Universe produced?”. The courses prepared for the fourth-grade students are shown in the following.
N-1 Super B-Factory Experiment
The B-factory experiment uses the KEKB collider located at the High Energy Accelerator Organization in Japan. The N laboratory played a leading role in the observation of CP violation in B meson decays, which verified the Kobayashi-Maskawa mechanism. Now, we are searching for physics beyond the SM via precision measurements of the B-meson and tau-lepton decays at the Super-KEKB collider, which provides 30 times higher luminosity than the KEKB. Research topics for students include analyses of data obtained at KEKB and Super-KEKB colliders and their simulation studies. The researches utilize high-quality computers owned by the N laboratory.
N-2 LHC-ATLAS Experiment
The LHC-ATLAS experiment is held at CERN located at Geneva, Switzerland. Proton-proton collisions are provided with the highest energy in the world. The N laboratory played a leading role in the development and the operation of the muon detectors, which were essential for the observation of the Higgs boson. We measured the top quark properties, studied the origin of muon mass, and searched for supersymmetric particles. Further searches for physics beyond the SM are ongoing. The students are expected to learn the basics of the LHC-ATLAS experiment through the development and the operation of the muon detectors as well as the analyses of the data.
N-3 Muon g-2/EDM Experiment
The g-2 is the anomalous magnetic dipole moment, a fundamental parameter of particle physics. The current measurement of muon g-2 is deviated from the SM prediction, which would be a hint of the physics beyond the SM. Aiming for more precise measurement with different sources of the systematic uncertainties, the N laboratory is preparing for a new experiment using the muon beam of the J-PARC accelerator at the High Energy Accelerator Organization in Japan. The students are expected to contribute to the development of a new system of the transportation and the diagnostics of the muon beam, a key element of the experiment.
N-4 Advanced Experimental Techniques
Frontiers of particle physics have been explored by advanced experimental techniques. In the N laboratory, a new particle detector called “TOP counter” was developed and installed for the super B-factory experiment. The TOP counter identifies the particle types by precise measurements (10 pico-second order) of Cherenkov photons generated in the quartz radiator. New photon detector for the TOP counter upgrade is under study. For the LHC-ATLAS experiment, a new attempt is ongoing for detecting the signatures of the physics beyond the SM by combinations of FPGA and machine learning. We also work on the techniques of muon acceleration, big data analysis, and applications of machine learning to data analyses and particle identifications. The students can contribute to these researches, which will possibly play essential roles in future discoveries.

● Φ laboratory (Laboratory of Particle Properties)
Experimental approaches to elementary particle physics can be categorized into two criteria: (1) direct observation of high energy particle reactions using high-energy accelerators (2) indirect observation of high energy phenomena in precision measurement of the contribution of higher-order quantum-loops of high-energy phenomena in low-energy processes. In the Phi-lab., slow neutrons from the most luminous pulsed neutron source at J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex) will be mainly used to probe the properties of elementary particles. We also use muon beam. The following is out list of on-going research items. We encourage students to consider to invent new approaches and welcome motivated students.
Φ-1 Neutron Decay Rate (Lifetime)
Neutron decay rate is a key parameter to define the weak interaction for quarks and also the primordial nucleosynthesis. Its experimental accuracy is still insufficient for precise verification of theoretical models. We are going to improve our understanding by improving accuracy and to search for non-standard interactions.
Φ-2 Study of the breaking of the symmetry under spatial-inversion and time-reversal in neutron-induced compound nuclei
Large violation of the symmetry between matter and antimatter is required in order to explain our universe. We are now studying the enhancement of the symmetry breaking in neutron-nuclei reactions. The search for the symmetry breaking in some reactions is independent of and competitively sensitive to that of neutron EDM. We are also developing some techniques for neutron spin control, polarization of target nuclei, and high-speed neutron detection to improve the sensitivity beyond standard model of particle physics.
Φ-3 Breaking of Time Reversal Symmetry (Neutron Electric Dipole Moment)
Neutron does not have the electric dipole moment (EDM) as long as the time-reversal symmetry is a valid symmetry. In reality, any non-zero value of neutron EDM has been measured so far. However, the asymmetry between matter and antimatter in the universe implies a finite value of EDM. The determina
履修条件
Course Prerequisites
実験系研究室に配属が決定していること。

Allocation to the experimental laboratory has been made.
関連する科目
Related Courses
物理学科が用意する物理学関連科目

Physics-related courses prepared by the Department of Physics
成績評価の方法と基準
Course Evaluation Method and Criteria
授業への参加態度、理解度などに基づいて評価し、各研究室の基準により合否を判定する。

Assessment is based on the attitude of participation in the class, the degree of understanding, etc., and pass / fail is assessed according to the criteria of each laboratory.
不可(F)と欠席(W)の基準
Criteria for "Fail (F)" & "Absent (W)" grades
履修取り下げ制度による場合は「欠席(W)」とし、それ以外の成績不良者は「不可(F)」とする。

If the withdrawal is accepted, it will be "absent (W)", and for other poor grades, it will be "impossible (F)".
参考書
Reference Book
各研究室毎に指定する。

Specify for each laboratory.
教科書・テキスト
Textbook
各研究室毎に指定する。

Specify for each laboratory.
課外学習等(授業時間外学習の指示)
Study Load(Self-directed Learning Outside Course Hours)
各研究室毎に指定する。

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注意事項
Notice for Students
他学科聴講の可否
Propriety of Other department student's attendance
不可

Impossible
他学科聴講の条件
Conditions for Other department student's attendance
レベル
Level
キーワード
Keyword
履修の際のアドバイス
Advice
授業開講形態等
Lecture format, etc.
各研究室毎に指定する。

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遠隔授業(オンデマンド型)で行う場合の追加措置
Additional measures for remote class (on-demand class)
各研究室毎に指定する。

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