学部・大学院区分
Undergraduate / Graduate
法・博後
時間割コード
Registration Code
4301040
科目区分
Course Category
法学研究科開講科目
Courses Offered by the Graduate School of Law
科目名 【日本語】
Course Title
法哲学基礎研究Ⅱ
科目名 【英語】
Course Title
Fundamental Studies in Jurisprudence Ⅱ
担当教員 【日本語】
Instructor
松尾 陽 ○
担当教員 【英語】
Instructor
MATSUO Yoh ○
単位数
Credits
4
開講期・開講時間帯
Term / Day / Period
春 月曜日 2時限
春 月曜日 3時限
Spring Mon 2
Spring Mon 3
対象学年
Year
1年
1
授業形態
Course style
講義
Lecture


授業の目的 【日本語】
Goals of the Course(JPN)
今年度も、昨年度に引き続き、「多様性」に焦点をあてる。文化、ジェンダー、地域の多様性の中でも、とりわけ、文化の多様性の問題に焦点をあてつつ、リベラリズムはどのような形で多様性と関係してきたのかを考察する。
日本政府は、少子化対策の鍵として移民とAIに着目している。AIはおくとして、移民の増大は、容易に予測される。また、日本社会は、経済発展の一つとして、観光産業を発展させてきた。そのようなことから、異なる文化をもった人びとが多く流入し、一方で、多くの豊かな実りが芽生えると同時に、他方で、多くの衝突が起こることが予想される(既に起きている部分もある)。したがって、多様性の問題を哲学的に考察することは、喫緊の課題といえよう。
そこで、1980年代以降に生じた多文化主義をめぐる論争を中心に講義していく。ところどころで日本の問題もとりあげる。
授業の目的 【英語】
Goals of the Course
This lecture’s focus is on ‘diversity’. There are several dimensions of diversity, such as cultural diversity, gender diversity, and local diversity, but we are going to examine how liberalism is compatible with diversity and is based on it, by focusing on cultural one.
Japanese government seems to think that immigration is important to solve the problem of declining birthrate. Additionally, Japanese society has promoted tourism for economic development. These increase international people who come to Japan, leading to both social and economic fruits and serious conflicts. Therefore, to think about diversity problem is an urgent task.
With these in mind, we are going to learn controversy about multiculturalism in western world, sometimes picking up the cases in Japan.
到達目標 【日本語】
Objectives of the Course(JPN)
この授業を履修した学生は、法哲学上の基本的コンセプト(たとえば、リベラリズム、権利、多文化主義、正義など)の理解を習得することができる。ここでコンセプトの理解とは、定義、登場背景、他のコンセプトの関係、応用の仕方を理解することをいう。

また、これらのコンセプトを学習することにより、社会現象を批判的に見る目を養う。
到達目標 【英語】
Objectives of the Course
The students will be able to learn basic concepts in jurisprudence, such as liberalism, right, multiculturalism, justice and so on. To learn those concepts enables the students to explain their definition, their background, their relation to the other.

On those understandings, the students can critically think about social phenomena.
授業の内容や構成
Course Content / Plan
【概論】
1. イントロダクション
本講義の見取り図
リベラリズムの再検討――多様性の観点から
リベラリズムの多様性: (ⅰ)思想的多様性、(ⅱ)制度的多様性(財産権をめぐる位置づけ)。
21世紀の課題としての多様性Diversity
多様性をめぐる日本の状況: 移民とジェンダー 

2. リベラリズムの概説: リベラリズムの諸原理
リベラリズムの諸原理: (ⅰ)個人の自由の優先性、(ⅱ)国家介入の根拠としての個人の自由(他者危害原理とパターナリズム)、(ⅲ)統治機構の位置付け。
リベラリズムの多様な基礎: 公正、幸福、平等な尊重と配慮、自律、正義、多元論、寛容。
リベラリズムの自由論: 不干渉としての自由(*共和主義的)
リベラリズムの制度論: 不干渉としての自由(共和主義的自由論との対比)
多様性の伝統的位置づけ: 道具としての多様性

3. リベラリズムの概説: 平等主義的リベラリズムの登場とその限界
自由論: 不干渉としての自由(*共和主義自由論との対比)
リベラルな自由論の問題: (ⅰ)独立した人間の想定、(ⅱ)絶対的弱者問題(社会保障の問題)の排除、(ⅲ)相対的弱者(資本主義の問題)の排除。
リベラルが積極的に進まなかった道: 個人から集団へ。
平等論: 形式的平等から実質的平等へ。
平等主義的リベラリズムの概要: (ⅰ)ロールズ、(ⅱ)ドゥオーキン。
平等の徹底化——リベラリズムとの相克?: アマルティア・センのケイパビリティ―論。

4. リベラリズムの概説: 文化との関係
文化に対する対応の一応の見取り図の提示。
(ⅰ)中立(形式的平等): リベラルな制度枠内での文化相対主義。
(ⅱ)統合: 「形式」の問題。公用語、フランスの共和主義(政教分離)。
実質的平等: (ⅰ)過去の不正の是正、(ⅱ)実質的平等への取り込み*Brian Barryらの議論。
(ⅲ)混合的調整: 多様性の混合と衝突の調停。*アイリス・マリオン・ヤングの「都市」論
(ⅳ)分離の容認: 多様性の分離と特区の容認。

【具体的問題の提示】三週に分けて具体的な問題の所在を提示する。
5. 多文化主義の問題: ケベック問題(1)
カナダのケベック州の歴史。
参考文献『多文化社会ケベックの挑戦―文化的差異に関する調和の実践 ブシャール=テイラー報告』

6. 多文化主義の問題: ケベック問題(2)
カナダ憲法の現在
日本における「地域」の問題。
参考文献『多文化社会ケベックの挑戦―文化的差異に関する調和の実践 ブシャール=テイラー報告』
新井誠ほか編著『地域に学ぶ憲法演習』

7. 多文化主義の問題: アーミッシュ(1)
アーミッシュとは?
公教育・義務教育の成立
アーミッシュと教育制度との関係: 対立と調整
*日本に同種の問題はあるのか
参考文献: 松尾陽「リベラルで民主的な社会に対するアーミッシュの問いかけ――Wisconsin v. Yoder, 409 U.S. 205 (1972)」大沢秀介・大林啓吾編著『アメリカ憲法と公教育』(成文堂、2017年)所収(頁:147-182)。

8. 多文化主義の問題: アーミッシュ(2)
Wisconsin v. Yoder 事件
事件の概要
法廷意見と反対意見
自律派と寛容派の衝突
親子の問題
*日本における同種の問題の探索: 日本のエホバの証人の輸血拒否問題(最高裁判例と親権停止問題)
参考文献: 松尾陽「リベラルで民主的な社会に対するアーミッシュの問いかけ――Wisconsin v. Yoder, 409 U.S. 205 (1972)」大沢秀介・大林啓吾編著『アメリカ憲法と公教育』(成文堂、2017年)所収(頁:147-182)。

9. スカーフ(ヴェール)問題(1)
イスラム教にとってのスカーフ(ヴェール)とは?
スカーフの規制: ヨーロッパのいかなる価値観と対立したのか。
参考文献: クリスチャン・ヨプケ著『ヴェール論争: リベラリズムの試練』(法政大学出版局、2015年)

10. スカーフ(ヴェール)問題(2)
スカーフ規制をどのように考えるべきか。
日本の状況との比較。
参考文献: 内藤正典・阪口正二郎編著『神の法vs.人の法 スカーフ論争からみる西欧とイスラームの断層』(2007年)


【多様性の問題への理論的応答】*文化の問題に重点。ジェンダーの問題にも可能な限り言及する。
11. ロールズのリベラリズムと文化の問題(1)
ロールズの正義論の概要
(ⅰ)課題: 社会の基礎構造
(ⅱ)出発点: 公正としての正義と自尊

12. ロールズのリベラリズムと文化の問題は文化の問題(2)
(ⅲ)正義の二原理: 格差原理など
(ⅳ)正義論の方法: 無知のヴェール
ロールズとコミュニティ・文化・ジェンダーの問題

13. コミュニタリアニズム(1)
コミュニタリアニズム
負荷なき自我

14. コミュニタリアニズム(2)
コミュニタリアニズムと多文化主義
分配をめぐる政治と承認をめぐる政治

15. フェミニズム(1)
概論: 第一波、第二派、第三波、第四波、第五波…?
フェミニズムとリベラリズムとの関係

16. フェミニズム(2)
差異派フェミニズム
正義の倫理とケアの倫理
フェミニズムとジェンダー論
参考文献: アイリス・マリオン・ヤング『正義と差異の政治』(2020年)

17. ウィル・キムリッカの自律ベースのリベラリズム(1)
リベラル・コミュニタリアン論争の止揚?
リベラルな多文化主義論の登場
(ⅰ)リベラルな哲学の見直し: 自律観のコンテクスト化。
(ⅱ)リベラルの実際の見直し: 国民形成、公用語。
参考文献: キムリッカ『多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義』

18. ウィル・キムリッカの自律ベースのリベラリズム(2)
文化集団の類型化。
具体的問題(アーミッシュ、移民、先住民などの問題)への示唆
キムリッカに対する批判。

19. チャンドラン・クカサスの脱出権の擁護(1)
キムリッカ批判。
クカサスの主pp津店
反省と善き生
脱出権(離脱権)の保障。
参考文献: Chandran Kukathas『The Liberal Archipelago』

20. チャンドラン・クカサスの脱出権の擁護(2)
脱出権(離脱権)への批判
脱出権の現実性: Hutterite、難民。
参考文献: 飯田文雄編『多文化主義の政治学』(2020年)

21. ウィリアム・ギャルストンの寛容ベースのリベラリズム(1)
二つのリベラリズムの伝統: 宗教改革と啓蒙
多元主義の擁護
参考文献: William Galston『Liberal Pluralism』、同『Liberal Purposes』

22. ウィリアム・ギャルストンの寛容ベースのリベラリズム(2)

23. スティーブン・マシードのリベラルな徳論
徳ベースのリベラリズムの登場の背景
参加的共和主義の背景
ロールズとの違い

24. スティーブン・マシードのリベラルな徳論
教育の問題
アメリカの事例。
日本事例: 教科書問題、剣道実技事件。
参考文献: Stephen Macedo『Diversity and Distrust: Civic Education in a Multicultural Democracy』(2000)

25. ブライアン・バリーの平等主義的擁護
これまでの議論に対するバリーの批判の検討

26. 多様性ベースのリベラリズムの再検討:まとめ

【法多元主義の問題】
27. 近代国家と法一元主義
ウェーバーの国家論
法一元論
公法学帝国主義?

28. 法多元主義の問題
私法の位置付け: 公法に吸収? 私法の独自性?
千葉正士の法哲学再考。
法とは何か。

29. まとめ(1)
危機に立つリベラリズム

30. まとめ(2)
多様性に向けたリベラリズムは可能か
履修条件・関連する科目
Course Prerequisites and Related Courses
履修要件は要さない
成績評価の方法と基準
Course Evaluation Method and Criteria
レポート100%
(履修取り下げ制度、採用する)。

論述の過程で、(ⅰ)授業で話した内容を踏まえているか、(ⅱ)授業で紹介された文献や資料ないし自分で探し当てた文献や資料に基づいているかどうか、(ⅲ)さまざまな意見を的確に整理しているか、(ⅳ)自分の意見を述べることができているかどうかに応じて、レポートの評価を行う。なお、講師と同じ見解を採用しているかどうかは、重要ではない(講師の見解を批判することはプラス評価になりうる)。

上記のレポートで60%以上をとった場合、合格となる。
教科書・テキスト
Textbook
レジュメや予習用資料を配布する。
参考書
Reference Book
・田中成明『現代法理学』(有斐閣)978-4641125483
・平野仁彦・亀本洋・服部高宏『法哲学』(有斐閣アルマ) 978-4641121485
・宇佐美誠・瀧川裕英・大屋雄裕『法哲学』(有斐閣) 978-4641125674
・田中成明『現代法理学』(有斐閣)978-4641125483
・平野仁彦・亀本洋・服部高宏『法哲学』(有斐閣アルマ) 978-4641121485
・宇佐美誠・瀧川裕英・大屋雄裕『法哲学』(有斐閣) 978-4641125674
課外学習等(授業時間外学習の指示)
Study Load(Self-directed Learning Outside Course Hours)
授業中に適宜指示する。
注意事項
Notice for Students
周りに迷惑をかけなければ、飲食可能。
授業開講形態等
Lecture format, etc.
講義形式。
基本的には対面遠隔併用授業として実施します。遠隔のみの授業の場合は、授業担当教員の指示に従ってください。対面の場合の講義室一覧については、名古屋大学大学院法学研究科ホームページの「NEWS ニュース」に掲載します。URL:https://www.law.nagoya-u.ac.jp/
The courses are held as hybrid classes employing both face-to-face and remote teaching methods basically. If a course will be held by remote teaching methods only, please follow the instructor's directions. List of lecture rooms for face-to-face methods will be posted in the "News" of the homepage of the Graduate School of Law.
URL:https://www.law.nagoya-u.ac.jp
遠隔授業(オンデマンド型)で行う場合の追加措置
Additional measures for remote class (on-demand class)
オンラインのリアルタイム方式。どのツールを使うかは、大学のルールによる。
ウェブを通じた授業となる場合、文献に関して、ウェブ上で入手可能なものを推薦するようにする(これは、2020年度も実施した)。また、ネット上の本屋でも見つけることができる本などを参考図書にあげるようにする。なお、入手不可能な本の場合は、授業内で、その内容を可能な限り紹介する。
遠隔授業は基本的にはNUCTで行う。教員への質問方法、学生同士の意見交換の方法は次のとおりとする。なお、教員より別の指示がある場合は、その指示に従うこと。
・教員への質問は、NUCT機能「メッセージ」により行うこと。
・授業に関する受講学生間の意見交換は、NUCT機能「メッセージ」により行うこと。
(※担当教員が「フォーラム」機能を追加設定した場合は「フォーラム」も利用可。)
Remote classes are conducted via NUCT basically. Questions to instructors should be asked using the NUCT "Message" function.
Student discussions will be conducted using the NUCT "Message" function. (If the instructor has added the "Forum" function, the "Forum" can also be used.)
Follow your instructor's directions if your instructor has any other directions