授業の目的及びねらい Goals of the Course | | 数学を教える際には分野横断的な広い視野が非常に重要である.そこで今回の講義では「分野横断的に考えるとは具体的にどう考えることなのか」をよく示してくれる例として,19世紀数学の栄光の一つと考えられている「ピカールの小定理」(通常は複素関数論の定理と位置付けられている)の B. Davis による確率論的証明(これはすでに古典になっている)を理解したいと思う.確率論が複素解析にどう繋がっていくのか,この辺りの事情を周辺知識を織り交ぜながら解説することが本講義の目的である. |
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授業内容 Course Content / Plan | | 1回目.序章.Gauss積分.Wallisの公式.Stirlingの公式.本講義で頻出する漸近的な議論に親しんでもらうためのウォーミングアップ.計算をやり切ることは講義中にはできないことが多いので,それを補うという意味もある. 2回目.第一章.酔歩.ラプラス方程式を離散化して確率論的に解く.線形代数に確率論を応用するという面白さ. 3,4回目.第二章.酔歩からブラウン運動へ.ピカールの小定理の確率論的証明で鍵となる概念がブラウン運動である.ブラウン運動を発見的方法で導入する. 5,6回目.第三章.中心極限定理(第二章の続き).中心極限定理の元になったドモアブルの定理を幾何学的に導くことによって確率論と幾何学の相性の良さを観察する. 7,8回目.第四章.酔歩は再帰的か.酔歩が出発点に戻ってくるかどうかという問題を解いたのがポリアの定理である.Wallisの公式がそうであったように系列を成す対象を一つ一つ考えるのではなく全体が持つ構造に注意を向けるという方法で,ポリアの定理を証明する. 9,10回目.第五章.ブラウン運動は再帰的か.第四章の結果をブラウン運動の場合に拡張する.ラプラス方程式を確率論的に解くことの有用性を理解する.この機会に高次元の極座標について学ぶ. 11,12回目.第六章.正則写像によるブラウン運動の像.ブラウン運動と複素関数論の関係.それを使ってカソラティ・ワイエルシュトラスの小定理を証明する. 13,14回目.第七章.ブラウン運動と位相幾何学.「ブラウン運動は絡むか?」を問うことには位相幾何学的な意味がある. 15回目.第八章.ピカールの小定理とその確率論的証明.以上の内容をまとめた講義資料をTACTにおくので各自でダウンロードしてほしい. |
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成績評価の方法と基準 Course Evaluation Method and Criteria | | 対象学生が広い範囲に及ぶので初等的な問題を中心に多くのレポート問題を資料の中に配置する.単位希望者はこれらから数題を解いてTACTの課題提出機能を通して提出する.提出されたレポートを元に成績を評価し,期末テストは行わない.レポートの提出を1,2,4,6,8,10,12,14回目の講義終了時に求める.二週間以内に提出すること.取り下げ制度を採用しない. |
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教科書 Textbook | | T.W.ケルナー著,高橋陽一郎訳「フーリエ解析大全(上下)」朝倉書店 ISBN4-11066-9 C3041, ISBN4-254-11067-7 C3041.緩やかな意味での教科書.持っていると一生楽しめること間違いなしの良書である. |
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参考書等 Reference Book | | |
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授業開講形態等 Lecture format, etc. | | この講義は原則対面実施と言われている.したがって,疫病の感染状況が悪くなければ対面で実施する. |
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