授業の目的 【日本語】 Goals of the Course(JPN) | | 実験コースを選択する学生は各実験系研究室に所属し、各研究室が用意する実験テーマのうち1つを選択して、1年間 にわたって実験を行う。最先端の実験物理を通して物理学の知識を深めることを目的としている。 |
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授業の目的 【英語】 Goals of the Course | | Students who choose the experimental course belong to each laboratory and carry out physics experiments for one year in each laboratory.
The aim of this course is to deepen students' knowledge of physics through state-of-the-art experimental physics. |
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到達目標 【日本語】 Objectives of the Course(JPN)) | | 各研究室で1年間に渡って行った実験結果と考察について発表できること。 各研究室の具体的な研究内容については, 「授業内容」の欄を参照のこと。 |
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到達目標 【英語】 Objectives of the Course | | By the end of the course, students will be able to present the results and discussions of experiments carried out in each laboratory over a year. For the specific research content of each laboratory, refer to the "Course content and structure". |
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授業の内容や構成 Course Content / Plan | | 素粒子・原子核物理学分野
●F研(基本粒子研究室)
素粒子標準模型におさまらない諸問題に取り組むべく、素粒子/宇宙をはじめそれにとどまらない実験的研究を行う。この学問領域で研究したい学生諸君、また物理や理学の枠に収まりきらない興味、才能をもつ学生諸氏を歓迎する。
F-1 ダークマターの正体を探る
ダークマター(WIMPS)の衝突によって生じた反跳原子が残す非常に短い飛跡を超微粒子の原子核乾板で3次元的にとらえ、ダークマターの飛来方向をとらえその存在を実証する実験NEWSを推進する。超微粒子結晶の開発、100nm程度の極短飛跡を光学的に読出す手法や装置の開発を行い、目的を達成する。実験はイタリアグランサッソー研究所で準備中である。またWIMPS以外のダークマター候補の可能性を探る実験的研究も推進する。
F-2 ニュートリノの研究
ニュートリノ振動の実証により質量の存在が確定したが、3種(νe、νμ、ντ)以外のニュートリノが存在するのかどうか?質量の絶対値や階層性、マヨラナ粒子なのかディラック粒子なのかなどの解明すべき本質的な課題や、宇宙をみたしていると考えられているビッグバンニュートリノの検出などの、基礎的~挑戦的な実験的諸課題に取り組む。
F-3 気球搭載型大口径超高解像原子核乾板望遠鏡による宇宙の観測
気球に世界最大口径のγ線望遠鏡を搭載して、γ線で天体を高分解能にイメージングするGRAINE計画を推進する。現在、2023年に行ったオーストラリアフライトの解析を進めており、γ線天体の世界最高分解能でのイメージングの実証を目指している。今後、さらなる高感度・高解像度化を目指し、望遠鏡開発にも取り組む。
F-4 原子核乾板をはじめとする素粒子検出器の開発研究
素粒子研究で培ってきた原子核乾板技術をベースとし、検出器の開発研究を推進する。
例1)中性子を用いた近接力の測定:超高精度原子核乾板による中性子の波動関数検出。
例2)自動原子核乾板読取装置の開発(画像認識の高度化、高速化)など。
例3)原子核乾板本体の開発。化学合成で製造する原子核乳剤の特性革新に取り組む。
●N研(高エネルギー素粒子物理学研究室)
素粒子物理学は、物質を構成する基本粒子とその相互作用を探求する学問である。現在のところ、物質が6種類の「クォーク」と「レプトン」で構成されること、粒子間に働く相互作用が光子やWボゾンなどの「ゲージ粒子」によって媒介されること、素粒子の質量が「ヒッグス粒子」によって与えられることが知られている(標準理論)。本研究室は、その実験的検証を進め、粒子と反粒子の対称性の破れを説明する小林-益川理論を検証するとともに、ヒッグス粒子を発見することに成功した。現在は、標準理論を超える新しい物理を発見することを目的として、「スーパーBファクトリー実験」、「LHCアトラス実験」、「ミューオンg-2/EDM実験」を進めている。これらの研究によって、「暗黒物質の正体は何なのか?」、「宇宙から如何にして反物質が消えたのか?」といった標準理論では説明できない宇宙の謎の本質に迫りたい。こうした壮大な研究は、一人一人のアイデアや努力が結集して初めて成立するものであり、4年生の研究もその一翼を担う。以下に、4年生実験におけるテーマの概略を示す。
N-1 電子陽電子衝突で探るB中間子、タウレプトン物理
本研究室は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)におけるBファクトリー実験を推進し、B中間子崩壊における粒子と反粒子の対称性の破れの観測によって、小林・益川理論の実験的検証を成功させた。現在は、ビーム輝度を30倍に増強したスーパーBファクトリー実験によって、大量に生成されるB中間子やタウレプトンの稀崩壊過程をより精密に調べ、電荷を持つヒッグス粒子やレプトクォークなどの新粒子や、標準理論では起こらない新しい物理現象の発見を目指している。4年生は、これまでの実験で得られたデータの解析やシミュレーションに携わることで、最先端の素粒子研究についての理解を得ることができる。本テーマでは、本研究室の高性能のコンピュータを駆使した研究も行うことができる。
N-2 陽子・陽子衝突による質量起源、真空の性質、新物理の探究
LHCアトラス実験では、スイス・ジュネーブに設置された周長27 kmの加速器LHCによって世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突を実現し、素粒子の質量起源の研究、超対称性理論や余剰次元理論で予言される新しい粒子の探索を行っている。本研究室は、ミュー粒子検出器の運転を通じて質の高いデータの取得を実現し、2012年のヒッグス粒子発見を導いた。また、トップクォークの性質の解明、ミューオンの質量起源の探求、超対称性粒子の探索などで成果をあげてきた。2029年頃からは、陽子・陽子衝突の頻度をLHC設計値の7.5倍に向上させ、ヒッグス粒子やトップクォークをプローブとした真空の性質の研究や新物理の探索を行う。4年生は、ミュー粒子検出器の運転、読み出し回路の開発、ヒッグス粒子や新物理に関するデータ解析を通し、最先端の素粒子実験を学ぶことができる。
N-3 超精密ミューオンスピン振動実験による新物理探索
g-2は、粒子が持つ磁気の強さを示す基本的な物理量である。ミューオンのg-2は非常に精密に測定することができ、これまでに0.1 ppmオーダーの測定精度を実現しているが、測定結果が標準理論の予測と乖離しており、標準理論を超える物理が寄与している可能性がある。本研究室では、KEKのJ-PARC加速器を用いてミューオンのg-2を全く新しい手法で測定し、これまでに得られている乖離の解釈に決着をつけるための準備を進めている。新しい手法の実現に質の高いミューオンビームが欠かせず、2025年の完成を目指して技術開発を行っている。4年生は、新しいミューオンビームの輸送系や制御系の技術開発に携わることができる。
N-4 先端実験技術の開発
最先端の物理研究には最先端の実験技術が必須であり、素粒子物理学もまた新しい実験技術の開発によって進展してきた。本研究室では、「TOPカウンター」という新型検出器を独自に考案し、その技術開発と製作を進め、スーパーBファクトリー実験への実装を成功させた。TOPカウンターは広範な新物理探索で不可欠であり、近年はその改良のための新しい光検出器の開発も行っている。また、最先端の集積回路を用いて機械学習を高速で実現することにより、LHCアトラス実験のデータの中から新粒子のデータを選び出す新しいアイデアを試している。世界初となるミューオン加速器の開発、ビッグデータの解析、データ解析や粒子識別への機械学習の応用も行っている。4年生はこれらに携わることができる。世界初の試みに挑戦する絶好の機会を提供する。
●Φ研(素粒子物性研究室)
素粒子の実験的研究は、高エネルギー加速器を用いて素粒子の反応を直接的に研究する方法と、高エネルギー現象が低エネルギー過程に現れる微小な効果を計測する方法とに大別される。当研究室では、低速の中性子やミューオン、原子核を用いた精密測定により素粒子物理学の実験的研究を行っている。実験には世界最高輝度を誇るJ-PARCのパルス中性子やミューオン、カナダTRIUMF研究所の超冷中性子、フランスLaue Langevin研究所(ILL)やアメリカ国立標準技術研究所(NIST)または京都大学複合原子力科学研究所(KURNS)などの研究用原子炉からの定常中性子ビームを利用する。以下は現時点で想定される課題であるが、実際に行なう実験内容は参加学生との議論の中で生まれるアイデアを尊重して進めることを考えている。新たな先端研究分野への意欲を持つ学生を歓迎する。
Φ-1 中性子崩壊率(中性子寿命)
中性子の崩壊率は、クォーク間の弱い相互作用の強さや初期宇宙における元素合成の過程を決定する基本パラメータであるが、充分な精度で値が確定していない量でもある。高精度計測によってこれらの物理的な理解を検証・精密化するとともに、標準的でない相互作用の探索を行なう。
Φ-2 複合核状態における空間・時間反転対称性の破れの研究
現在の物質優勢宇宙を形成するためには粒子と反粒子の間に素粒子標準模型を超える大きな非対称が存在しなければならず、その探索は素粒子物理学の重要な課題である。中性子と原子核の反応を用いてこれに挑んでいる。
中性子が特定の原子核に共鳴吸収され複合核を作る反応では空間・時間反転対称性の破れが大きく増幅され得ることが理論的に示唆されている。候補となる標的原子核の特性を詳細に研究するとともに、中性子スピン制御、標的原子核の偏極、高速検出器など必要とされる装置を開発し、素粒子標準模型を超える対称性の破れを探索する。後述する電気双極子能率の探索と独立な高感度探索である。
Φ-3 中性子電気双極子能率
中性子は電荷を持たないが、粒子反粒子の非対称性は0ではない電気双極子能率を示唆する。しかしこれまで電気双極子能率の0でない値を観測した実験は存在しない。この電気双極子能率の上限値は素粒子の理論に極めて強い制限を与えており、値の確定は素粒子研究の最重要課題の一つである。
毎秒数メートルまで減速された中性子を物質容器内に閉込め、電磁場下でのスピン歳差周波数を精密に計測する。閉込め量増大及び運動状態制御に対して、世界最高レベルの中性子光学を最大限利用して従来の測定感度の限界を打破し、中性子電気双極子能率の発見を目指す。またもう一つの測定法として、中性子と物質内部の高電場との相互作用を利用した中性子電気双極子能率の高感度計測の可能性も探っている。
Φ-4 中性子による未知相互作用(余剰次元等)の探索
重力相互作用はあまりにも弱いため、素粒子を研究する際には無視されるのが通常である。しかし、中性子は電気的に中性子で電磁場の影響を受けにくく、低速の中性子は重力の影響を大きく受ける。中性子の散乱や干渉を利用して、余剰次元による異常な重力や暗黒エネルギーなど、これまでに知られていない相互作用を探索する。
Φ-5 ミューオニウム超微細構造の精密測定
正ミューオンと電子からなる水素様原子ミューオニウムはレプトンの二体系であり、理論的に精密な計算が可能である。超微細構造を精密に分光することで素粒子標準理論を検証したり、ミューオン異常磁気能率測定実験の入力パラメータを取り出すことができる。大強度パルスミューオンを用いて世界最高精度で測定する。また負ミューオンをヘリウム原子に結合させたミューオニックヘリウムの分光実験も行っており、これらを組み合わせることでミューオンの質量やより基本的な対称性について調べることができる。
以上の研究テーマに加えて、「中性子反中性子振動を通じたバリオン数非保存過程の探索」などのテーマがある。
●μ研(宇宙線イメージング研究室)
本研究室では、宇宙線中に含まれる素粒子ミューオンを原子核乾板などの飛跡検出器により可視化し、その飛跡情報を解析することで、ピラミッドや火山などの巨大な人工構造物や自然物の内部を非破壊でイメージングする技術(宇宙線イメージング)の開発研究を行っている。宇宙線を検出する技術である原子核乾板の基礎開発から宇宙線イメージングの可視化対象に特化した応用研究、さらにはその技術の社会実装まで進めている。既存の物理学の枠にとらわれない幅広い興味と意欲を持つ学生を歓迎する。
μ-1 宇宙線イメージングの基盤技術開発
宇宙線イメージングに必要な基盤技術の開発を行う。1.宇宙線イメージングに必要な長期間特性を備える新しい原子核乾板の開発を有機化学などの技術を導入して進める。2.宇宙線イメージングのためのシミュレーション技術の開発を行う。3.計測した宇宙線データから観測対象の三次元密度分布を再構成する技術の開発を行う。
μ-2 ピラミッドなどの考古遺跡調査技術の開発
2015年よりエジプトのピラミッド群の未知の内部構造を探査するScanPyramidsを推進している。これまでにクフ王のピラミッド内部に2つの未知の空洞を発見したが、新しい調査対象としてカフラー王のピラミッドなどの研究を進める。ホンジュラスやグアテマラなどの中南米のマヤ文明の神殿ピラミッド、イタリアのナポリ市街地のギリシャ地下遺跡など、世界中の遺跡を対象として、遺跡を傷つけない新しい調査手法の開発を進めている。
μ-3 地下構造探査および土木構造物をはじめとした社会インフラ点検技術の開発
近年、地下空洞による陥没事故や集中豪雨などによる河川堤防の決壊、社会インフラの老朽化などが社会的な問題となっており、宇宙線イメージングにより地下構造や土木構造物などの内部を可視化することで、これらの事故を未然に防ぐための技術開発を進める。これらの研究は、可視化対象を専門とする研究機関や課題を抱える自治体、企業などと連携して進める必要があり、社会実装まで視野に入れた開発を行う。
μ-4 宇宙線イメージングの新規対象の開拓
樹木の診断や橋梁の劣化診断、巨大火山「富士山」の内部可視化、溶鉱炉や焼却炉などの工業用プラントの内部診断、地下資源の探査など、新しい調査対象の開拓を進める。
宇宙物理学分野
●A研(天体物理学研究室)
138億年にわたる宇宙の歴史のなかで、宇宙の構成要素である恒星や銀河がどのように生まれ、進化してきたかを理解することは、現代の天体物理学・天文学の主要なテーマのひとつだ。天体物理学研究室 (A研) では、あらゆる天体の根源である星間物質に着目し、ミリ波サブミリ波観測という手段を駆使して、こうした天体の形成と進化を理解する研究を行っている。天文学分野のフロンティアを切りひらく情熱と意欲をもった学生を歓迎する。
A-1 宇宙早期の銀河の観測とデータ解析
遠方宇宙で形成される若い銀河が放射する遠赤外線のダスト放射や原子輝線は、宇宙膨張に伴い”赤方偏移”してサブミリ波領域で観測することが可能だ。4年生実験では、世界最大のサブミリ波望遠鏡「アルマ」を軸に、世界各地の電波望遠鏡や可視赤外望遠鏡も併用し、宇宙再電離期から現在に至る銀河形成や進化、その内部の星形成活動や星間物質、超大質量ブラックホールと銀河の共進化に関する観測的研究を行う。卒業研究では、受入教員が取得したデータや課題A-2で自ら取得するデータを用いて、データ解析法やスペクトル放射過程の基礎を学ぶ。これにより、銀河が持つガスの状態(温度や密度など)や力学的性質、銀河が持つ恒星の性質(年齢や質量、星形成率)を明らかにする。
A-2 次世代サブミリ波望遠鏡のための装置開発
当研究室では、次世代の大型サブミリ波望遠鏡の性能を飛躍的に向上させる、以下の技術開発を行っている: (1) 電波波面の撹乱を実時間で補正するミリ波補償光学技術、(2) データ・サイエンスの手法を用いた望遠鏡構造の設計技法の開発、(3) 宇宙早期の銀河探査を目的とした超広帯域サブミリ波分光計の信号処理技法および解析ソフトウェアの開発。これらは世界に類を見ない試みであり、新しいアイデアがあれば4年生でも先端分野を切りひらくことが可能である。これらの開発プロジェクトに主体的に参加し、既存の電波望遠鏡(野辺山45m望遠鏡、南米チリ・アステ望遠鏡、メキシコLMT望遠鏡など)に搭載し、課題A-1につながる観測データを得ることも念頭に置いた世界初の実証実験に取り組む。
A-3 銀河系及び近傍銀河のミリ波・サブミリ波及びマイクロ波による星間物質の観測とデータ解析
天の川銀河や近傍銀河の星間分子ガス・原子ガスの広域な分布や物理状態を探ることは、星・惑星やその母体となる分子雲の形成を理解するうえで重要である。我々は口径4mのNANTEN2ミリ波・サブミリ波望遠鏡を南米チリアタカマ高地(標高4865m)に設置し、一酸化炭素分子・炭素原子スペクトル線の観測を行っている。また、JAXA臼田宇宙空間観測所(長野県)の口径64mマイクロ波(ギガヘルツ帯)アンテナを用いた中性水素原子21cm輝線やヒドロキシラジカル分子輝線の観測を行っている。これらの望遠鏡を操作し、電波分光観測の方法を学ぶとともに、銀河系中心部や高銀緯の分子雲・原子雲、大小質量星形成領域、超新星残骸、マイクロクェーサー、系外銀河等の各種天体の観測的研究を行う。
A-4 NANTEN2や臼田64mアンテナのための受信機システム及びソフトウェアの開発
サブミリ波観測に好適なチリアタカマ高地の特長を最大限活かしながら、分子スペクトル線の観測効率をさらに高めるため、NANTEN2望遠鏡に搭載する多波長・多ビーム同時受信システムの開発を進めている。また、臼田64mアンテナのためのマイクロ波帯冷却受信機や解析ソフトウェアの開発を進めている。この開発実験に参加し、受信機やデジタル分光計の設計・製作や評価、及び運用・制御ソフトウェア、データ解析用ソフトウェアの開発を行う。
●U研(宇宙物理学研究室)
U-1 赤外線天文衛星「あかり」などによる赤外線データの解析(Uir)
赤外線天文衛星「あかり」には、本研究室が中心になって開発した遠赤外線観測装置 FIS に加え、近・中間赤外線カメラ IRC と二つの観測機器が搭載された。天体からの赤外線放射の源は、主に星間空間に漂う固体微粒子(有機物・鉱物)の熱的放射や、原子・分子ガスのスペクトル線である。赤外線の観測を行うことで、我々の銀河系の星間空間や星・惑星系形成領域の物理状態、銀河の星形成活動史などを調べることができる。本研究室が作成した「あかり」赤外線全天マップを中心に、「あかり」を含むさまざまな赤外線望遠鏡(Spitzer衛星、Herschel衛星、JWST衛星、南アフリカIRSF、「すばる」、など)で取得された膨大な観測データから、面白そうな天体(銀河や惑星系形成円盤など)を選んで、その天体の赤外線放射の特性を学ぶ。また、その過程を通して、天体画像データ解析や赤外線観測装置について習熟する。
U-2 次世代衛星用の赤外線検出器・冷却光学系の開発・評価(Uir)
次世代の赤外線天文衛星用の装置開発につながる基礎技術を身につけるべく、赤外線カメラや冷却光学系の新しい評価技術の開発などの実験に参加してもらう。当研究室は米国主導PRIMA遠赤外線衛星計画と日本主導GREX-PLUS近中間赤外線衛星計画に深く関与しており、JAXAなどと共同開発を行う。実験を通して、低温・赤外線検出器の技術を身近に体験し、計測器の制御・実験データ取得の基礎を学ぶ。あるいは、光学干渉計を用いた鏡の低温面形状測定などの実験に参加し、低温反射光学系の設計・計測の基礎を習得する。
U-3 地上望遠鏡および気球望遠鏡のための赤外線分光器の開発(Uir)
南アフリカ1.4 m望遠鏡IRSFに搭載する近赤外線分光器、および現地の他望遠鏡との連携観測のための光ファイバー接続光学系を開発する。または、インド気球望遠鏡用の遠赤外線アレイ分光器の開発を行う。これらの開発を通じて、天体観測装置の開発に必要な知識・技術を広く習得する。より具体的には、
1.幾何光学をもとにコンピュータによる光学シミュレーションを行い、光学系の製作・調整をする。
2.加重/熱による材料の変形を考慮した3次元CADによる機械設計をおこない、製作する。
3.赤外線検出器の原理を理解し、検出器の性能評価とその制御回路を製作する。
4. 観測装置を開発し、現地望遠鏡に搭載して観測性能の評価および科学研究のための観測を行う。
U-4 超小型衛星の編隊飛行型宇宙干渉計SEIRIOS(Uir)
東京大学航空宇宙工学科と協力して、次世代の宇宙望遠鏡としての編隊飛行型宇宙干渉計の実現に向けて、超小型衛星を3機用いたSEIRIOSプロジェクトを推進している。3機の超小型衛星を最大で100メートルまで空間的に離すことで、口径100メートルと同等の望遠鏡の角度分解能を実現することができる。そこで卒業研究のテーマとして、干渉縞計測のための干渉光学系および衛星の精密な位置および角度制御のための光学センサーの開発を理工連携の下で行いながら、先進的な光学機器の基礎を習得する。
U-5 次世代宇宙X線・ガンマ線観測衛星のための装置開発(Uxg)
宇宙で最も高温な天体はX線を強く放射し、そこで生まれる非熱的粒子はMeVへと放射を広げるため、X線・MeVガンマ線の観測は高エネルギー宇宙を探る鍵である。その観測精度を革新すべく、次世代の観測装置を開発している。格段に高い角分解能をもつ次世代X線望遠鏡を開発しており、地上プラズマ実験から超小型衛星、さらには太陽観測衛星PhoENiXや、ダークバリオン探査衛星SuperDIOSなどの将来X線衛星への適用を目指している。望遠鏡を宇宙の過酷な熱環境から守る熱制御薄膜の開発でも世界の先端にある。また次世代の硬X線・MeVガンマ線観測実現のための新型検出器も開発している。2023年9月7日に打ち上げられたX線精密分光衛星XRISM、2024年4月に打ち上げられた太陽フレア観測ロケットFOXSI-4に続き、2026年打ち上げ予定のFOXSI-5や、2027年打ち上げ予定のMeV天文衛星COSIや地球オーロラ観測ロケットLAMP-2、地球磁気圏X線撮像 GEO-X、将来の広帯域X線観測衛星JEDI 計画などの将来計画に参加し、その望遠鏡やイメージャー、さらに将来の高感度MeV観測を切り開く新しい気球実験、月面のガンマ線と中性子を観測するMoMoTaro計画に参加している。またこの技術を活かして、自然界で唯一知られる静電場粒子加速である雷雲MeVガンマ線の観測を北陸で実施しており、その世界最先端にある。4年実験では、X線望遠鏡、熱制御膜、硬X線・MeVガンマ線観測装置、雷ガンマ線観測装置の開発に取り組む。実験を通じて、宇宙の高エネルギー現象観測を目標とした、設計・製作・評価の一連の研究開発を学び、X線光学、検出器技術の基礎を修得し、プロジェクト型の研究推進を身につけることを期待する。
U-6 X線天文衛星のデータ解析による高エネルギー宇宙の観測的研究(Uxg)
宇宙にはブラックホールや銀河団など、数千万度の高温プラズマや高エネルギー粒子にあふれ、X線で明るく輝く高エネルギー天体が沢山ある。日本で打ち上げられた5・6番目のX線天文衛星である「すざく」や「ひとみ」、最新の精密X線分光衛星XRISM、NASAのX線衛星Chandraと、硬X線衛星NuSTARや、ESAのX線衛星XMM-Newton などの観測データを解析し、宇宙の高エネルギー現象の解明に挑戦する。具体的な天体としては、天の川銀河系内の高エネルギー放射源、宇宙大規模構造の中の銀河団分布やその衝突現象、ブラックホール、中性子星、恒星フレアなどの観測的研究を行い、それぞれのデータ解析技法と背景にある物理を学び、観測宇宙物理の基礎を習得する。
U-7 重力波天文学と重力波検出器サイエンス(Uxg)
2015年にAdvanced LIGOによる重力波初検出が実現して以来、一般相対性理論の検証、天体のマルチメッセンジャー観測、そしてブラックホールや中性子星連星の合体現象の観測を通じて、重力波天文学は急速に発展してきました。次世代重力波検出器計画であるCosmic Explorerでは、近傍宇宙を超え、宇宙の果て(z〜20)までのブラックホール合体の観測が可能となり、宇宙の進化の過程を明らかにできると期待されています。当研究室では、Advanced LIGOやCosmic Explorerをはじめとする世界各国の重力波プロジェクトと密接に連携し、最先端の検出器技術やデータ解析手法の開発に取り組んでいます。重力波検出器はレーザー干渉計を基盤としており、その規模は従来の望遠鏡とは桁違いに大きく(例:4kmの光共振器)、最先端技術を集結させた非常に複雑な装置で、光学・物性・機械・制御といった多くの物理現象が関与しています。研究トピックは学生の興味や適性に応じて選択可能で、現在提案できる研究テーマの一例としては:(1)Advanced LIGOでは、500 kWに達するレーザーが干渉計の鏡を熱し、その結果として干渉計の稼働が妨げられるという問題が発生しています。どのような物理的現象が、鏡や共振器に影響しているのか?どのように制御できるか?(2)エタロン効果を利用して鏡の反射率を自在に熱変化させることで、検出器の感度を最適化できるか?(3)現在の重力波検出器で使用されている古典的なフィードバック制御システムを、AIや機械学習を用いて改善・置き換えることができるか?(4)AIや機械学習を使って、装置の状態(感度の良否、稼働の安定性、制御の破綻リスクなど)をより精密に判別できるか?といったテーマが選択可能です。これらのテーマを通して、国内外の研究者と交流し、自立して研究を進める力も身につけてもらいます。
物性物理学分野
●I研(固体磁気共鳴研究室)
固体磁気共鳴研究室は、主に微視的な測定である核磁気共鳴(NMR)法を用いて、物質の物性を支配する普遍的な物理法則の解明を目指す。
NMRは物質の性質を決める電子に最も近い原子核から観測できる物性の微視的手段である。特に電子の軌道・スピン状態、電荷状態そして局所構造における対称性のわずかな変化を高感度に検出でき、そこから、物質の基底状態・励起状態の起源を解明する。
4年生では、以下の実験テーマの研究を通して、物性実験研究の進め方を修得とこれまでに学んだ量子力学、統計物理学や電磁気学をベースに、現実の物質の物性をどのように理解することができるのかを体験する。
I-1 強相関電子系の磁性
電子系の量子多体効果は固体物理学の中で重要な問題の一つである。電子が持つ基本的自由度、電荷、スピン、軌道が、強い電子間相互作用により絡み合う多彩で新奇な物性が現れている。量子スピン液体、量子ホール効果、超伝導、励起子絶縁体などが見られる物質が研究対象となる。3d, 4d, 5d軌道電子が主たる役割を演じる遷移金属化合物の試料合成・評価、巨視的物性測定、そしてNMR測定を行う。
I-2 鉄系超伝導体や層状ニッケル酸化物など様々な超伝導体の物性
銅酸化物高温超伝導体(High-Tc Cuprate)、層状コバルト酸化物、鉄系超伝導体に続き、2023年に圧力下で液体窒素温度を越える80Kの超伝導転移温度Tcを示す層状ニッケル酸化物が発見され、High-Tc Cuprateの物質に匹敵するその高いTcに関わらず、電子状態の違いから、High-Tc Cuprateとは異なる超伝導機構を持つ可能性があり注目されている。また、その軌道状態の変化が誘起する電子系の回転対称性の破れがもたらす新奇物性に興味も期待されている。様々な層状ニッケル酸化物の合成から巨視的、微視的物性測定までを行い、超伝導発現の起源と考えられるスピン/軌道/電荷ゆらぎと超伝導発現の関係を調べる。
I-3 超流動
どんなに冷やしても凍らない液体であるヘリウム3や4は低温で量子液体として振舞う。これは多数の粒子が一つの量子状態(ボース・アインシュタイン凝縮)となる秩序状態である超流動状態となり、これまで多くの研究が進められた。このヘリウムを10^-9 mサイズのナノ細孔中に閉じ込め、ヘリウムの運動を低次元に制御すると、新しいヘリウムの量子流体の発現が期待される。この状態での熱特性、磁性を測り、この新しい量子流体の基底状態を調べていく。
I-4 NMR測定技術の開発
強相関電子系の特異な物性は極低温、高圧力、高磁場の極限条件下で現れることが多く、条件下でNMR測定を行う必要がある。そのため、使用できるNMRプローブの開発、NMR装置の高感度化、NMRデータ解析の開発などを行う。さらに、光で核スピン、電子スピンの状態を制御・検出する「光磁気共鳴」といった最先端の技術開発を進めている。これらは、将来新しい高温超伝導体の設計、従来の性能を凌駕する量子コンピュータやMRI(磁気共鳴画像装置)のコア技術へと進展する可能性を持つ。
●J研(ナノ磁性・スピン物性研究室)
J研究室では、ナノスケールで初めて顕在化する新しい磁性・スピン物性・超伝導物性の解明と、物理学の新概念の創出を目指した研究を行っています。ナノ物性の研究では、新現象の発現の舞台を自らで人工的に自在に設計・創製することで、従来アプローチすることが困難であったような領域への扉を開くことができます。電子系・フォノン系・スピン系が強く結合したミクロな界面状態の設計により新規で面白い現象が次々に発見されています。また、これらの現象の起源の解明は、逆に物理現象を操作する方法論や原理の提案にもつながるという点からも興味深いと言えます。4年生の皆さんは、単結晶薄膜成長、ナノ微細加工、電気・磁気測定、高周波測定等の実験技術の習得から始め、ナノ磁性やスピントロニクスに関する物性物理研究の醍醐味を体験できます。最近の進めている研究の例のいくつかを示します。
J-1 界面マルチフェロイクスと交差相関
磁気モーメントは磁場と、電気分極は電場と相互作用することは一般的ですが、磁気モーメントが電場と、電気分極が磁場と相互作用する物質があります。マルチフェロイクスと呼ばれるこの物質群は非常に稀です。しかし、物質の界面を利用することで人工的に設計・創製することが可能です。この研究では、磁気モーメントと電気分極の相互作用のメカニズムの解明を通して、電気で磁石を操作する原理の提案を目指します。
J-2 トポロジカル磁気構造とスピンダイナミクス
ナノ磁性体におけるトポロジカル構造(位相欠陥・位相テクスチャー)が誘発するスピンダイナミクスの物理の解明を目指します。異種物質接合(強磁性体・強誘電体・超伝導体)からなるトポロジカル界面を人工的に形成することで、トポロジカル構造とスピンダイナミクスとの相関を明らかにします。さらに、スピンダイナミクスの外部制御を可能とする革新的機能の創出まで狙っています。
J-3 界面交換結合とマグノン伝播
強磁性の低エネルギー励起状態にスピン波と呼ばれる形態があります。このスピン波を量子化した準粒子はマグノンと呼ばれます。マグノンは強磁性体中を伝播しますが、その伝播特性は磁性体/反強磁性界面における交換結合(交換バイアス効果)などに大きく影響を受けます。この研究では、磁性体/反強磁性界面における交換結合とマグノン伝播との相関に関する物理の解明を目指します。
J-4 人工反強磁性体の静的・動的スピン現象
ナノスケールの強磁性体と非磁性体を交互に積層した多層膜構造では、非磁性体の厚さに依存した電子状態の変調により、強磁性体の磁気モーメントが互いに平行に配列する状態と反平行に配列する状態を取ります。反平行に配列した状態は人工反強磁性と呼ばれ、最近注目を集めています。この研究では、人工反強磁性体の電子状態とその中を伝播するスピン波の物理の解明、さらにその外部制御を狙っています。
J-5 磁性/超伝導ナノ界面における電子相関
磁性体/超伝導体の界面では、電子間の相互作用を介して磁気秩序と超伝導秩序が影響を及ぼし合います。超伝導体にナノスケールで侵入する磁気秩序は、スピンの向きが揃った超伝導キャリアを有する非従来型の超伝導状態を誘起することができます。逆に、磁性体に侵入する超伝導秩序によって、磁化の向きを制御することも可能です。この研究では、このような磁性による超伝導の制御、あるいは超伝導による磁性の制御を可能にするナノ界面での微視的な電子間相互作用の解明および新規現象の開拓を行います。
●O研(光物性物理研究室)
O研究室は、2024年度にスタートした新しい研究室です。私たちはレーザーの特性を活かした最先端の計測装置を開発し、それを用いた様々な物質の物性解明や機能開拓を目指した研究を行います。具体的には、固体物性を支配する電子状態を高いエネルギー精度で検出するために、単色性に優れたレーザー光源を備えた光電子分光装置を建設します。さらに、レーザーを集光させることで微小空間の電子状態観測を可能にします。本装置により、固体中を運動する電子のエネルギー、波数、スピンや軌道の情報を得ることで、高温超伝導体や強相関電子系などの特異な物性の起源を明らかにしたいと考えています。2024年度中に名古屋大学にて実験装置の部品調達を終え、2025年度からは学生の皆さんと一緒にどんどん立ち上げていきたいと考えています。光物性や装置開発に興味がある学生さんは是非一緒に研究しましょう。装置が立ち上がるまでの期間も、東京大学や各地の放射光施設などに出張して、共用の光電子分光装置を用いた以下の研究テーマを推進していきます。学部4年生では、レーザー光学、真空技術や低温実験手法を習得し、創意工夫により光物性物理学を楽しんでもらいたいと思います。
O-1 集光型レーザー光電子分光装置の開発
光電子分光実験に用いられる光源サイズは一般に100 µmから1 mm程度であり、これまで比較的大きく平坦な単結晶表面を対象とした研究が行われてきました。私たちは、1 µm以下の空間分解能を目指した集光型レーザー光電子分光装置を開発します。これにより、強相関電子系が示す空間不均一な秩序形成や磁気ドメイン境界の特異な金属相など、微小空間に特有な現象を電子状態の観点から解明したいと考えています。さらに、粉末試料や凹凸がある三次元物質が観測可能となることで、研究対象が大きく拡大することが期待されます。
O-2 非従来型超伝導体の電子対形成
超伝導状態にある電子は互いに引力を感じて対を形成することでボーズ凝縮を引き起こします。このとき電子状態には超伝導ギャップと呼ばれる微細なエネルギー構造が現れ、電子間引力の起源に応じた様々な形状を示します。高温超伝導体を初めとした非従来型超伝導体と呼ばれる物質群では、電子のスピンや軌道の自由度が電子対形成に寄与する可能性が指摘されています。本研究では、光電子分光を用いて超伝導ギャップを詳細に調べることで、電子対形成の起源を明らかにすることを目指します。
O-3 高温超伝導体の常伝導電子状態
超伝導を担う電子の素顔である常伝導電子状態では、電子系が結晶格子の回転対称性を自発的に破る「電子ネマティック状態」と呼ばれる奇妙な現象が報告されています。このような電子系の回転対称性の破れは銅酸化物や鉄系超伝導体において見出されており、高温超伝導体に特徴的な現象である可能性が高まっています。光電子分光を用いた電子ネマティック状態の研究から、高温超伝導機構の理解を目指します。
O-4 超高速時間分解電子顕微鏡の開発と応用
電流や光などの外場を積極的に印加することにより、物質のミクロかつ高速なダイナミクスを引き起こすことができます。一般に空間と時間のスケールは互いに結びついており、ナノメートルからマイクロメートルの空間領域で生ずる現象は, フェムト秒からマイクロ秒の時間スケールに広く分布しています。固体中の高速な外場応答を明らかにすることは, 新規な局所高速現象の開拓、複雑物性の発現機構の解明、電子デバイス等の性能を律速する要因の理解に繋がります。O研では、フェムト秒パルスレーザーと透過電子顕微鏡を組み合わせて、ナノスケールの現象を高速に動画撮影する装置を建設します。これを用いて、光誘起相転移、音響フォノン、磁気渦、強誘電ドメインなどの固体中で生じる興味深い現象を対象にした研究を推進します。
●V研(機能性物質物性研究室)
V研は機能性物質の物理学を研究する研究室です。機能性物質とは、磁石になる、電気を通す、熱を蓄えるといった、私たちに役に立つ性質(機能)を示す物質のことです。V研では未解明の機能を持った新物質、「新しく、面白く、役に立つ物質」を自ら創り出し、その機能を計測し、機能が発現する仕組みを理解することを研究テーマとします。こうした研究を通じて、物理学の新分野の開拓を目指します。以下に実験テーマのいくつかの例を示します。
V-1 相互作用の競合から生じる新物性
固体の中には、電気的、磁気的、機械的など様々な相互作用があり、いくつかが競合する場合があります。競合の仕方によって物質は予想もしない応答を示します。最近、私たちは相互作用が拮抗することによって生じた新規な量子スピン系を見出しました。また、複数の基底状態が競合するCa2RuO4の非線形応答を調べています。相互作用が競合するような特異な結晶構造を設計し、未知の物性を開拓します。
V-2 半金属における巨大機能の開拓
半金属とは伝導バンドの下端のエネルギーが、価電子バンドの頂上のエネルギーより低くなる(バンドギャップが負)の物質です。これまで金属や半導体・絶縁体は物性研究や機能開拓が進んできましたが、半金属は未解明の物性が多い、未知の物質群です。最近私たちは室温で強磁性を示す半金属や、従来の低温熱電性能を遥かに凌駕する半金属を発見しました。このような非従来型の半金属に眠る未知の物性を精密測定によって掘り起こします。
●Y研(応答物性研究室)
Y-1 優れた機能性と環境親和性を兼ね備えた誘電体
誘電体は電気伝導体や半導体と並んで、今日の科学技術を支える重要な物質系です。系統的な物質合成と、精密な物性計測を通して、主に地殻に豊富に含まれる軽元素を物質の構成要素としつつ、優れた機能性を発現する新しい誘電体を設計・開発します。具体的には、巨大な誘電率を持つ物質や光によって誘電率が変化する物質、温度変化によって発電する物質などを創製します。
Y-2 新しい強誘電体の探索
自発的にN極とS極に分かれた物質を強磁性体と呼びますが、一方で自発的に+極と-極に分かれた物質は強誘電体と呼ばれます。強誘電体は通常の誘電体では生じない様々な機能を示し、不揮発性メモリやアクチュエータ、非線形光学結晶等に広く応用されています。私たちの研究室では、結晶構造と構成元素、そして格子揺らぎの間の相関に着目して、新しい強誘電体を探索します。
Y-3 準結晶の新奇物性
「準結晶」は、原子配置の並進対称性について特殊な等比数列的な規則性(準周期性)をもち、結晶と似たような回折像が現れるが、その回転対称性は結晶では許されないものであり、アモルファスとも異なる「第3の固体」です。周期的ではないため、電子状態は通常の結晶とは異なっていると考えられています。長距離の磁気秩序や超伝導など電子の凝縮状態も含めて、準結晶特有の電子状態に起因する新奇物性を探索します。
Y-4 新しい準結晶・近似結晶の探索
広義の結晶(準結晶・近似結晶を含む固体)を舞台にした固体物理学を基本にして、新しい物理現象の発見と周期・準周期性で物性をコントロールする新たな手法の基礎研究を進めています。新奇物性(強相関電子系を含む電子物性、格子物性、…)が生み出す機能性材料の創成を目指して、新しい準結晶・近似結晶の探索を行い、高次元空間を利用したマテリアルデザインと広義の固体物理学の学理を追求します。
生物物理学分野
●D研(生体分子動態機能研究室)
タンパク質や核酸といった生体高分子は、構造変換や自己集合、他分子との結合・解離などの動的現象を通じて、独自の生理機能を発揮しています。D研では、これらの生体分子の動作原理を深く理解するために、分子の動きをリアルタイムで直接可視化し、一分子レベルでの構造動態や相互作用を解析しています。私たちは、溶液中の分子をナノメートルスケールで観察できる高速原子間力顕微鏡(AFM)技術を駆使し、新しい機能の開発や先端的な一分子計測手法との融合に挑んでいます。これにより、動的構造生命科学の最前線を切り開いています。さらに、合成分子と生体分子を融合したハイブリッド分子の創成にも取り組んでおり、これにより分子運動や細胞内機能を人工的に制御することを目指しています。この研究は、新しい生物機能の創出や応用に向けた重要なステップとなります。
D-1 生体機能分子の動態解析と機能発現機構の解明
多くのタンパク質は周囲の環境変化や基質の結合や分解、解離などの化学反応を引き金として、局所的な構造変化とその時間発展に伴う大局的な構造変化や多分子との協奏的な相互作用により独自の機能を発揮します。モータータンパク質や膜タンパク質などを対象に、高速AFMにより構造変化や分子間相互作用のダイナミクスをリアルタイムで可視化し、詳細な解析を行うことで、生体分子の作動原理を解明します。
D-2 新規一分子計測技術の開発
生体分子では構造だけでなく、電気特性や力学特性の局所分布とそれらの時間発展も機能に極めて重要な役割を果たしていると考えられています。高速AFMでは通常試料の表面構造をイメージングしますが、物性分布を可視化するなどの新規機能の開発を進めます。また、蛍光顕微鏡などの先端一分子顕微鏡との複合化により、複数のタンパク質が関与する複雑な系の動態解析が可能な装置の開発も目指します。
D-3 ハイブリッド分子の創成と機能制御
合成分子と生体分子を融合したハイブリッド分子の創成により、分子運動や細胞内機能を人工的に制御することを目指しています。この研究は、新しい生物機能の創出や応用に向けた重要なステップとなります。ハイブリッド分子の設計、合成、機能評価を行うことで、生体機能の理解と制御に新しい展開をもたらすことを期待しています。
D-4 人工高分子材料の動的機械特性計測手法の開発と応用
高速AFMは人工超分子や高分子ゲル、高分子フィルムなどのナノスケール構造及び力学物性が計測できる手法としても最近注目を集めています。現在、力学的に安定でかつ多刺激により容易に分解可能な高分子材料の開発に向けたプロジェクトを実施しており、その一環として、数十nmから数μm程度の大きさを有する高分子微粒子およびその水分散体(合成ラテックス)の力学的な安定性と、多刺激応答による微粒子分解の制御因子を高速AFMによるナノスケール計測で解明する研究を進めています。
●G研(光生体エネルギー研究室)
蛋白質は40億年の生命の進化によって創られた極めて精巧なナノデバイスです。植物や藻類が行う光合成では、蛋白質中に配置された色素分子や金属イオンによって、極めて高い量子効率の光エネルギー変換が実現します。この最も基本的な生命現象を理解するためには、この生体ナノデバイスの分子機構を明らかにする必要があります。 振動分光法、電子スピン共鳴、レーザー分光、分子軌道計算などの物理的手法を駆使して、光合成蛋白質の機能解明を目指します。4年生では生物試料の調製や分光測定、計算機による解析など、研究の基本的技術を習得しながら自らの研究課題に挑戦します。
G-1 光合成蛋白質のエネルギー移動および電子移動機構の解明
光合成では植物に光が照射されると、クロロフィルなどの色素による光吸収、励起エネルギー移動、電子移動、プロトン移動などの反応がフェムト秒からミリ秒の時間オーダーで連続的に起こります。また極低温において中間状態をトラップすることも可能です。様々な分光測定を用いてこうした反応を原子・分子レベルで追跡し、反応の分子機構とシステムの作動原理を解明します。
G-2 光合成酸素発生機構の解明
植物の光合成による酸素発生のメカニズムは未だ解決されておらず、光合成研究における最大の謎として残されています。 酸素発生は、蛋白質中に存在する金属クラスター(4つのマンガン原子と1つのカルシウムからなる)において、水の光分解によって行われますが、その構造も反応機構についても詳しいことは明らかとなっていません。赤外分光法や電子スピン共鳴法などを駆使して、酸素発生系の構造と反応メカニズムの解明を目指します。
G-3 生体測定技術の開発
生体試料の多くは濃度が薄く(量が少ない)壊れやすいという特徴あります。 そのため、測定にはさまざまな工夫が必要です。 測定系や試料部を自ら加工・製作し、新しいユニークな測定技術の開発を目指します。
●K研(細胞情報生物物理研究室)
生命現象には、様々な時間・空間スケールにわたって情報の変換や伝達が伴います。K研では、生体高分子、細胞を対象として、生命現象に見られる情報変換・情報伝達の機構や過程を研究しています。分子レベルの研究では、蛋白質の構造形成機構や複合体形成を伴う機能発現機構に焦点をあてます。一方、細胞レベルの研究では、シナプスにおける情報伝達機構に焦点をあてます。以下、それぞれの研究テーマについて具体的に記します。
K-1 蛋白質の構造形成/複合体形成を伴う機能発現機構の研究
蛋白質は、アミノ酸が多数連なってできた生体高分子であり、生命現象を担う機能性分子です。蛋白質の機能発現のためには、鎖状分子が折れたたみ、天然立体構造をとることが必須であり、さらに、複数の蛋白質分子が複合体を形成することもあります。蛋白質の構造形成・複合体形成およびそれに伴う機能発現は、生命科学と物質科学との境界に位置する現象であるにもかかわらず、その機構はよく分かっていません。蛋白質の構造形成・複合体形成の物理化学的機構が解明されれば、生命科学の地平線は大きく広がるはずです。物理学特別実験では、(1) 独自に開発した高速反応測定法や分光学的手法を用いた構造形成の物理化学的機構の研究、(2) 複合体形成を伴う概日リズム機能発現機構の研究を行います。具体的な実験内容は、以下の項目から適宜選択します。変異体蛋白質の作成とそれに伴う遺伝子操作、蛋白質の発現・精製、蛋白質の分光学的測定、構造形成・機能解析。
K-2 シナプスにおける情報伝達機構の研究
ニューロンとニューロンの接合部であるシナプスでは、活動電位が引き金となって生じるシナプス小胞の細胞膜との膜融合を通じて開口放出される神経伝達物質により信号が伝達されます。また、シナプスは信号を繰り返し伝達することにより、伝達効率が変化する性質(可塑性)を持っており、これが記憶・学習など脳の高次機能の基礎となっています。カエルの神経筋接合部シナプスを標本として、シナプス小胞の膜融合機構やシナプス可塑性の機構について、電気生理学的測定や蛍光顕微鏡を用いたイオン動態イメージング法により研究します。
宇宙地球物理学分野
●AM研(大気圏環境変動研究室)
近年の温室効果ガスの増加やオゾン層破壊など、地球の大気環境は産業革命以降の人間活動の急速な拡大によって様々な影響を受けている。他方、太陽活動の変化に伴う紫外線や太陽風の変動、宇宙からの銀河宇宙線、地球上の火山活動等の様々な自然要因による影響も受けている。将来の大気環境を正しく予測するために、こうした自然的・人為的要因による変動を明らかする必要がある。大気圏環境変動(AM)研究室では、ミリ波(電波)と赤外線遠隔計測の最先端技術を駆使して、地上からのフィールド観測や室内実験を通して大気環境変動の諸問題に迫っている。物理の知識と技術をベースに地球環境の研究に向き合う情熱と意欲をもった学生を歓迎する。
AM-1 極域の微量分子観測データから調べる太陽活動の地球大気影響
電気双極子モーメントを持った大気中の分子は、回転遷移によりミリ波の輝線を放射する。この輝線の形状を計算機で逆問題解析することで微量分子の高度分布や柱密度を導出することができる。AM研では南極の昭和基地および北極域のトロムソ(ノルウェー)で微量分子の長期観測を行なっている。4年生実験では、データ解析プログラムの開発、およびそのプログラムを用いた観測データの解析を通して、極域で起きる微量分子の変動の実態を明らかにし、超高層大気の研究グループとともに、太陽活動の変動が極域の大気環境に与える影響を観測的に明らかにする。
AM-2 赤外分光観測による温室効果ガス等微量分子の変動研究
気候変動の主要因である温室効果ガス等の大気微量分子は赤外域に多数の吸収線を持つ。AM研では国立環境研究所と共同で大型高分解能フーリエ変換型赤外分光装置(FTIR)を名古屋と北海道で運用し、太陽光吸収スペクトルデータから様々な微量分子の高度分布を求めている。4年生実験では温室効果ガスや大気汚染物質を中心に高度分布や時間変動の解析を通じて、大気環境変動とその要因に関する研究を行う。解析プログラムの開発やFTIR等の赤外分光観測装置による実観測も行う。
AM-3 ミリ波大気観測のための次世代観測装置開発
大気から放射されるミリ波輝線の多くは非常に微弱で、数時間のタイムスケールで十分なS/N比のデータを取得するには、超低雑音の超伝導受信機を用いた観測が必須である。AM研では国立天文台の研究グループと協力して多周波同時観測システムの開発に成功し、昭和基地において世界で初めて230GHzと250GHz帯での地球大気分子同時観測を成功させた。さらに遠隔地での長期無人連続観測を実現するための機器開発に取り組んでいる。4年生実験では、こうした新たな観測に向けた装置開発の基盤となる要素開発を行う。意欲のある4年生に開発の最前線に参加してもらい、世界初の観測装置を創る一翼を担ってもらいたい。
AM-4 衛星観測データおよびモデルシミュレーションから調べる地球規模の微量分子変動
地上からの観測では上空の大気の時間変化を連続的に捉えることができるが、地球に固定された定点の上空しか観測できない。一方地球の周回軌道にある人工衛星は地球上の様々な場所のデータを取得することができるが、ある定点の上空の観測は衛星がその地点を通過する一瞬だけしかできない。このように地上観測と衛星観測は相補的で、地球規模の現象を的確に捉えるためには、地上観測だけでなく、多様な衛星観測データやモデルシミュレーションとの比較・組み合わせが効果的である。4年生実験では、公開された衛星データやシミュレーションデータを読み込み、視覚化し地上観測データとの複合利用を進めるためのツール開発を行うこと、さらに機械学習や深層学習等のいわゆるAIも活用した新たな大気組成変動現象の解析手法を開拓すること等を目指す。
●CR研(宇宙線物理学研究室)
宇宙線は宇宙から地球に降り注ぐ陽子、ガンマ線、ニュートリノなど、高エネルギー素粒子の総称である。宇宙線物理学は、宇宙物理学と素粒子・原子核物理学にまたがる境界分野であり、その最前線を研究対象としている。また宇宙線は宇宙磁場の影響を受けながら地球に降り注ぎ環境に影響を与えうる。CR研は、素粒子と宇宙の両方に関心を持つ、視野の広い意欲的な学生を求める。
大学院では、スーパーカミオカンデでのニュートリノ研究や、液体キセノンを用いた暗黒物質探索XENONnT実験、宇宙ガンマ線観測による宇宙線加速機構の解明や暗黒物質の探索を推進するフェルミ・ガンマ線衛星、MAGIC望遠鏡やCTA天文台、LHCでの超高エネルギー宇宙線のハドロン相互作用を研究するLHCf実験、年輪中の放射性炭素14測定による太古の宇宙線バースト現象の研究、など宇宙物理から加速器実験まで幅広い研究を展開している。4年生では、宇宙線テキストブック(小田稔「宇宙線」(裳華房)、D. Perkins,“Particle Astrophysics” (Oxford Univ. Press))の輪講を行いながら、上述の研究テーマに関連した実験やデータ解析に主体的に取り組む。また、データ解析ツールROOTの講習会や、機械学習によるデータ解析などデータサイエンス教育にも力をいれている。
CR-1 液体キセノン検出器による宇宙暗黒物質の直接探索
宇宙の重力の大半を担う暗黒物質は、未知の素粒子WIMPが有力と考えられている。CR研では、液体キセノンを用いた暗黒物質探索実験XENONnT実験を行いながら、将来の40トン液体キセノン実験DARWINへ向けた開発研究を行っている。4年生では、この新しい液体キセノン検出器のプロトタイプの開発や、それに用いる低ノイズ光検出器の開発など、将来の暗黒物質探索を目指した研究を行う。
CR-2 宇宙ガンマ線による宇宙線物理学
電荷を持たない宇宙ガンマ線は宇宙磁場に関わらず直進し、暗黒物質対消滅の探索や、宇宙線加速の解明が可能となる。CR研では、フェルミ・ガンマ線衛星や、MAGIC望遠鏡、現在建設中の空気チェレンコフ望遠鏡CTAを用いて、暗黒物質からのガンマ線探索や、超新星残骸などの高エネルギー宇宙線源の研究を行っている。4年生では、これらの観測装置に用いる半導体光検出器や信号処理回路の開発、およびフェルミ衛星やMAGIC望遠鏡のガンマ線観測データ解析を通して、宇宙ガンマ線観測による暗黒物質探索および宇宙線加速機構の解明に取り組む。
CR-3 水チェレンコフ検出器を用いたニュートリノ研究
ニュートリノはとても軽く中性で左巻きしか存在しない謎の粒子で、宇宙や素粒子の成り立ちの鍵を握っていると考えられる。CR研では、地下水チェレンコフ検出器スーパーカミオカンデを用いたニュートリノ研究や、その後継のハイパーカミオカンデへ向けた開発研究を行っている。4年生では、機械学習を用いたニュートリノデータ解析アルゴリズムの開発や、ハイパーカミオカンデでの光検出器の性能評価などの研究を行う。
CR-4 超高エネルギー宇宙線のハドロン反応の研究
宇宙線の最高エネルギーは10の20乗電子ボルトに到達し、LHCを上回る超高エネルギーでのハドロン反応が起こっている。CR研では、LHCやRHICなど陽子・陽子コライダーで得られた超高エネルギーハドロン反応の研究を行うLHCf実験・RHICf実験を行っている。4年生では、これらのデータ解析や、それを適用した大気中での宇宙線シャワーシミュレーションの研究などを行う。
CR-5 宇宙線放射性核による過去の宇宙線変動の研究
宇宙線によって作られる年輪中の放射性炭素14や南極氷床中の放射性ベリリウム10などの宇宙線放射性核種の測定により、過去の宇宙線量の変動を研究する。4年生では、これら年輪や南極氷床中の宇宙線放射性核の測定やデータ解析に取り組み、過去に起こった超巨大太陽フレアや近傍超新星爆発の探索や、太陽の11年周期活動との相関研究を行う。
●SSE研(宇宙空間物理学観測研究室)
地球や惑星の周辺の宇宙空間は電離圏・プラズマ圏・磁気圏で構成される多様な領域であり多彩な物理機構が発現している。例えば、太陽風プラズマと固有磁場、大気プラズマ・中性大気・下層大気などが複雑に相互作用し、極域にはオーロラが出現し、磁気圏全体ではサブストーム・宇宙嵐と呼ばれる大規模変動が発生する。これらの物理過程は、太陽系内のみならず遠方宇宙でも基礎的かつ普遍的であるため、我々にとって最も身近で詳細な探査が可能な地球、あるいは様々な太陽系内惑星の超高層大気や周辺の宇宙空間で生起している自然現象とその変動過程を実証的に解明することは、宇宙・地球・惑星に関する包括的な理解につながる。本研究室では、最先端の科学観測機器を独自に開発し、海外・国内での拠点型・ネットワーク型の地上フィールド観測と宇宙空間に展開する探査機を用いた直接観測を両輪とした観測的・実験的研究を行っている。
詳しくは”https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/isee/research/study03.html”を参照。
SSE-1 将来の宇宙空間探査に向けた計測技術開拓
宇宙空間と地球・惑星環境との間で生起している多様な自然現象に関して、それらの素過程や物理機構を解明するには、探査機やロケットなどの飛翔体を用い、その場で直接観測することが不可欠となるため、我々は様々な探査衛星計画の立案・推進を主導してきた。本課題では、クリーンルーム内の各種設備・装置により宇宙空間に近い環境を再現し、宇宙探査計画に向けた観測器の研究・開発を行う。宇宙と地球・惑星の結合系で最も基本的な構成要素としての宇宙プラズマ・中性粒子を、飛翔体搭載用の分析器で直接計測するためには、研究・開発の段階において地上で十分に実験・試験を行うことが必要となるため、それに必要なビームラインなどの装置・設備の構築も課題となる。
SSE-2 地球極域オーロラ帯における探査衛星の高精度観測データの解析
地球周辺の宇宙空間のダイナミクスは地球固有磁場と結合している磁力線によって地球極域にも伝播されている。その一つがオーロラ現象であり、探査衛星による高精度計測によりオーロラを発現させる宇宙空間プラズマの加速機構の詳細が明らかにされつつある。この課題では、探査衛星計画にて取得された宇宙プラズマの観測データを解析することで、宇宙と地球・惑星の境界領域での物理機構を研究し、将来の宇宙探査衛星計画に向けた新しい知見を得ることを目指す。
SSE-3 北欧極域上部中間圏・下部熱圏の大気変動研究
極域上部中間圏・下部熱圏(高度70-120 km)の大気は、大気下層から伝搬する各種大気波動(大気潮汐波、大気重力波、プラネタリー波)の影響を受け、大気温度・風速は、時々刻々変動する。さらに、宇宙から太陽風エネルギーの流入を受け、オーロラ等の擾乱が加わる。我々は、北欧ノルウェーで運用しているEISCATレーダー、MFレーダー、流星レーダー、ナトリウムライダーデータを用いて研究を進めている。4年生は、これらの観測装置の原理を学び、解析研究を行う。
SSE-4 最新機器を用いた極域超高層大気の国際共同観測実験
本プロジェクトは、北欧で新たに稼働を始める大型電離圏観測レーダー(EISCAT_3D)と高性能光学干渉計(SDI-3D)を中心に、同地域に整備された光学カメラ・電波受信装置ネットワークや衛星観測を併用した総合観測実験を国際共同体制で実施する。取得した観測データを解析して、オーロラや磁気嵐の発生に伴い極域の超高層大気(電離圏、熱圏)に日常変動を凌駕する激変を生起させる物理機構の解明を目指す。本プロジェクトは、地球超高層大気に流入する太陽風エネルギーの変換・消失プロセス、宇宙天気研究の重要課題の一つである超高層大気の加熱・膨張、極域から中・低緯度へのエネルギーと物質の輸送を介した地球規模でのエネルギー収支に関する理解に直接的に貢献する。
●SW研(太陽圏プラズマ物理学研究室)
太陽は太陽風(Solar Wind)と呼ばれるプラズマを超音速(毎秒300-800km)で噴出していて、太陽系の惑星をすべて包み込む広大な空間、太陽圏(Heliosphere)を形成しています。この太陽風がどのように加速されるかは未だ解明されておらず、恒星物理学にとって大きな謎です。また、太陽圏の全体構造や太陽活動に伴う変動なども観測が乏しくよくわかっていません。SW研では、独自の大型電波望遠鏡群を用いて天体電波源の「またたき」現象、惑星間空間シンチレーション(Interplanetary Scintillation; IPS)の観測を実施し、取得したデータから太陽風の謎の解明を行っています。SW研のIPS観測は世界で唯一、太陽風速度のグローバルな分布を導出でき、そのリアルタイムデータを全世界に公開しています。この利点を生かして、SW研では以下のような課題について研究が行われています。また卒業研究を通じて機器開発(デジタルデバイス・アンテナなど)やデータ科学(プログラミング・数値シミュレーション・データ同化・AIなど)の技術を身につけることもできます。
SW-1 太陽風加速機構の解明
太陽風の加速機構という大きな謎の解明に向けて、SW研ではIPS観測に加えて、探査機等による太陽や太陽風の観測データおよびモデリング数値シミュレーション等を駆使して太陽コロナと太陽風の関係を調査しています。更に提唱されているモデルとIPS観測結果を比較することでモデルの検証も行っています。
SW-2 太陽風の流源の解明
太陽風には高速なものと低速なものがあり、高速風はコロナホールと呼ばれる低温・低密度の領域が流源とされていますが、低速風の流源については定説がまだありません。SW研では、太陽観測衛星「ひので」の観測データとIPS観測データ、太陽磁場データを組み合わせて、低速風の流源の解明を行っています。
SW-3 惑星間空間擾乱の伝搬特性の解明と宇宙天気予報の実用化
太陽風の擾乱は地球周辺の環境に大きな影響を与え、さらには我々の生活を支える社会基盤にも障害をもたらすことがあります。このため太陽風擾乱の到来を予測する「宇宙天気予報」が社会的な要請になっています。SW研では宇宙天気予報の精度向上を目指して、IPS観測と数値シミュレーションとのデータ同化や探査機観測との比較から太陽風擾乱の伝搬特性の解明を行うとともに、宇宙天気予報機関と共同でリアルタイム予測の実用化に向けた応用的研究も行っています。
SW-4 次世代観測のための大型電波望遠鏡および搭載装置の開発
SW研では次世代の太陽圏研究をリードするべく新型電波望遠鏡の開発を行っています。この望遠鏡は口径約100mに相当する日本最大級の電波望遠鏡となる計画で、最新のフェーズドアレイアンテナやデジタル信号処理技術を搭載し、既存装置の10倍の観測性能達成を目指しています。2024年度に一部が予算化され、現在魅力的な開発研究課題が多くあります。 |
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履修条件 Course Prerequisites | | 実験系研究室に配属が決定していること。
Allocation to the experimental laboratory has been made. |
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関連する科目 Related Courses | | 物理学科が用意する物理学関連科目
Physics-related courses prepared by the Department of Physics |
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「履修取り下げ届」提出の要・不要 Necessity / Unnecessity to submit "Course Withdrawal Request Form" | | |
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履修取り下げの条件等 Conditions for Course Withdrawal | | 履修取り下げ届けは11月末まで受理する。
Withdrawal of the course will be accepted until the end of November. |
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成績評価の方法と基準 Course Evaluation Method and Criteria | | 授業への参加態度、理解度などに基づいて評価し、各研究室の基準により合否を判定する。
Assessment is based on the attitude of participation in the class, the degree of understanding, etc., and pass/fail is assessed according to the criteria of each laboratory. |
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不可(F)と欠席(W)の基準 Criteria for "Fail (F)" & "Absent (W)" grades | | 履修取り下げ制度による場合は「欠席(W)」とし、それ以外の成績不良者は「不可(F)」とする。
If the withdrawal is accepted, it will be "absent (W)", and for other poor grades, it will be "fail (F)". |
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参考書 Reference Book | | 各研究室毎に指定する。
Specify in each laboratory. |
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教科書・テキスト Textbook | | 各研究室毎に指定する。
Specify in each laboratory. |
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課外学習等(授業時間外学習の指示) Study Load(Self-directed Learning Outside Course Hours) | | 各研究室毎に指定する。
Specify in each laboratory. |
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注意事項 Notice for Students | | 春学期履修登録期間に月曜3・4限に登録すること。
(秋学期履修登録期間には履修登録の必要なし) |
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他学科聴講の可否 Propriety of Other department student's attendance | | |
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他学科聴講の条件 Conditions for Other department student's attendance | | |
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レベル Level | | |
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キーワード Keyword | | |
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履修の際のアドバイス Advice | | |
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授業開講形態等 Lecture format, etc. | | 基本的に対面で実施する。各研究室毎に指定する。
Specify in each laboratory. |
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遠隔授業(オンデマンド型)で行う場合の追加措置 Additional measures for remote class (on-demand class) | | 各研究室毎に指定する。
Specify in each laboratory. |
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